本研究は、熱・統計物理学の構造を細胞増殖系に持ち込むことにより、細胞集団の集団としての増殖率(集団の成長率)を制御する新たなる手法を構築することを目標とする。また、実際の実験結果との比較検証も本研究計画の範囲に含まれる。前年度の報告書で述べたように、研究の目標自体は前年度にほぼ達成され、本研究で得られた細胞増殖系の理論を大腸菌の実験データに適応することにも成功した。具体的には、大腸菌の増殖系譜上のタイプ推定をするためのアルゴリズムを完成させた。本年度は、前年度得られた結果を論文にまとめ出版すること及び研究会議において対外的に発表することを行た。結果としては、2つの国際会議において発表を行い、また1本の論文を出版することが出来た。 以上に加え、本研究課題に関連するサブワークとして行っていた、細胞が環境情報をセンシング出来る場合どの程度集団増殖率を大きくできるかという研究課題についても結果を得ることが出来たので、それをまとめ1本の論文として出版した。内容としては、以下のようなものである。細胞集団内の全ての細胞が同一の環境情報を得るという仮定の下で解析していた自身の先行研究を発展させ、各々の細胞がそれぞれ異なる環境情報を得られる場合に理論を拡張した。実際の実験では、同じタイプを持っていたとしても異なる情報を同じ環境から取得することはよく見られるため、このセッティングの方が現実に即している。結果としては、この自由度のおかげで先行研究の結果に対して、より集団増殖率を大きくできることが明らかになった。
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