最終年度である2019年度は、2016年度から2017年度にかけて定式化し、2018年度にその有効性を検証した、拘束条件を持つ偏微分方程式のリミット・トーラス解に対する位相縮約法を論文化した。具体的には、拘束条件を持つ偏微分方程式のシンプルな典型例として、非圧縮性の2次元流体方程式系を考え、その系の進行振動対流に対する位相縮約法を論文化した。また、円柱座標系において速度・圧力変数で表示された3次元回転流体方程式系の進行振動対流に対する位相縮約法の有効性を検証した。 加えて、完全位相ロック状態にある振動子ネットワークの結合系におけるマクロな位相同期ダイナミクスを集団レベルでの位相縮約法により解析し、個々の振動子はすべて同相結合している状況においても集団間では逆相同期に成り得ることを理論だけでなく電気化学振動子を用いた実験でも示した。そして、論文化した。 2016年度から2019年度までの研究期間全体を通じた主要な研究成果は次の通りである。第一に、振動子ネットワークの共通ノイズ同期に対する最適化手法を開発した。第二に、強く相互作用する振動子系に対する集団レベルでの位相縮約法を定式化した。第三に、同期現象の数理科学に関する共著書を改訂した。第四に、偏微分方程式のリミット・サイクル解に対する位相縮約法を用いて、振動対流など偏微分方程式のリミット・サイクル解として記述されるリズム現象の相互同期に対する最適化手法を開発した。第五に、鞭毛の振動運動を偏微分方程式のリミット・サイクル解として記述する数理モデルに対する位相縮約法を定式化して、流体力学的に相互作用する一対の鞭毛の間の位相同期ダイナミクスを解析した。最後に、前述の通り、拘束条件を持つ偏微分方程式のリミット・トーラス解に対する位相縮約法を定式化して、熱的に相互作用する一対の進行振動対流の間の時空間的な位相同期ダイナミクスを解析した。
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