研究課題/領域番号 |
16K17771
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澁谷 憲悟 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20415425)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 陽電子 / ポジトロニウム / 原子衝突 / スピン軌道相互作用 / 部分波展開 / 消滅放射線 / シンチレーション検出器 / 重原子効果 |
研究実績の概要 |
低エネルギー領域におけるポジトロニウム-キセノン原子系の測定結果(消滅率および運動量移行断面積)に対して、部分波解析の手法を適用し、散乱長や有効距離等の消滅パラメータの解析を行った。この解析結果より、ポジトロニウムのキセノンガス中における消滅率の温度依存性は、スピン転換消滅(ポジトロニウムとキセノン原子のスピン軌道相互作用によって、スピン三重項ポジトロニウムが短寿命のスピン一重項ポジトロニウムにスピン転換することによる消滅率)とピックオフ消滅率(スピン三重項ポジトロニウムの陽電子がキセノン原子の中の電子と衝突して対消滅することによる消滅率)のエネルギー依存性として説明することができ、この二つの消滅経路以外を考慮する必要はないことが分かった。(※2013年の研究で、ピックオフ消滅率の温度依存性が他のガスに比べて極めて大きいことから、未知の消滅経路が存在する可能性も考えられていた) また、この解析結果をポジトロニウムが生成媒体であるシリカエアロゲルから放出される直後のエネルギー(約1電子ボルト)まで外挿すると、弾性散乱断面積のピークが0.4電子ボルトに存在すること、また、その内訳の大半は角運動量がゼロではない成分によって占められていることも分かった。このことから、「キセノン問題」(キセノン中でのポジトロニウムの形成率は、ヘリウム中での形成率よりも著しく低いことは不自然であるが、その理由が未解明)の原因はこの0.4電子ボルト付近の断面積ピークであり、スピン軌道相互作用によるスピン転換反応によってポジトロニウムが熱化する前に消滅しているためと考えられる。 ただし、最近の理論的な研究結果とは、断面積ピークの大きさが数倍程度異なっており、測定結果や解析方法の再検証が必要ではあるものの、現段階までの成果でフィジカル・レビュー・A誌への論文掲載が決まっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の中間的な結果がフィジカル・レビュー・A誌に論文へ掲載となり(2018年3月30日付で受理)、今後の研究の進捗によって期間内に2報目も執筆できる。また、本年8月下旬の国際学会での発表を申し込んだ。
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今後の研究の推進方策 |
キセノン、アルゴン、ネオンと原子番号の小さくなる順に系統的な測定を行う。最近の理論的な研究結果と、断面積ピークの大きさが2倍程度異なる(特に角運動量が1のp波成分の位相シフトが大きく異なる)ことから、測定結果やデータの解析方法の再検証も注意深く行う必要がある。本研究の測定方法は、低エネルギーでもp波(やd波)に高い感度を持つ点が強みであり、スピン軌道相互作用と弾性散乱の関係を明らかにしたい。 なお、研究計画の変更は特に無し。
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