研究課題/領域番号 |
16K17772
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
生田 力三 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90626475)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 量子情報 / 量子通信 / 波長変換 / 単一光子 / 量子メモリ / 冷却原子集団 / エンタングルメント |
研究実績の概要 |
本研究課題では、光ファイバーベースの量子情報ネットワーク実現に向けて、長距離にまたがった量子メモリ間に量子もつれ状態を生成することを目標に研究を行っている。このためには量子メモリと量子もつれ状態にある通信波長光子(1.55μm帯)を準備する必要があるが、本研究で用いる冷却ルビジウム原子集団(以下Rb)を含め多くの量子メモリ候補の発光波長は可視光波長付近であり通信波長帯との間にギャップがあるため、量子メモリから発光した可視光の量子力学的特性を損なうことなく通信波長光子に変換する技術が求められていた。本年度は、Rb量子メモリと量子もつれ状態にある可視光子を準備し、これを量子状態を壊さずに通信波長光子に変換することを目指して研究を行なった。 そのためにまず、高い相互相関をもつRbと可視光子を準備し、可視光子を通信波長光子に変換した。通信波長光子を検出した元でRbに蓄えられている励起スピン状態を読み出しその自己相関関数を評価したところ、その値は1を十分下回り、波長変換後も非古典的なスピン状態がRb内に保存されていることを確認した。逆に、Rbからの読み出し光を検出した元で通信波長光子の自己相関関数を評価したところその値はやはり1を十分下回り、非古典光子統計性をもつ通信波長光子を準備できていることが確かめられた。本成果は米国光学会の出版誌Opticaに掲載された。次に、Rbと量子もつれ状態にある偏光可視光子を準備した。光波長変換素子にはType0に擬似位相整合した導波路型PPLNを用いているが、これをサニャック型光干渉回路に導入することで偏光に無依存の安定な偏光光子波長変換器を実現した。波長変換後、Rbと通信波長光子間の量子状態を評価したところ、確かにエンタングルメントが保持されていることが確認できた。本成果については現在論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、冷却Rb原子集団と量子もつれ状態にある可視波長の偏光光子を、偏光状態を壊すことなく通信波長光子に変換し、Rbと通信波長光子間のエンタングル状態を順調に達成できた。さらに良質な量子状態を得るための指針も立っており、実験準備も整っている。この系に対する高度な量子操作実現に向けた準備も着々と進められており、当初の予定通り順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実現したRb原子集団と通信波長光子のエンタングル量子状態を2対準備し、これら通信波長光子同士の2光子干渉実験といった高度な量子操作の実現を目指す。そのための実験系の準備には既に着手しており、十分遂行できると考えている。また、実際に光ファイバーを用いた光子配送系を構築し、可視波長では実現不可能な遠距離間にまたがったエンタングルメント生成を目指す。
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