研究課題/領域番号 |
16K17773
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
猪谷 太輔 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 講師 (00726507)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フェルミ原子気体 / 超流動 / トラップポテンシャル / 強結合効果 / p波超流動 |
研究実績の概要 |
今年度は、トラップポテンシャル中のs波引力相互作用するフェルミ原子気体に対して、対形成揺らぎをT行列近似の範囲内で、トラップポテンシャルの影響を厳密に取り入れた理論の構築を行った。これにより、本系において、強結合効果とトラップポテンシャルによる非局所的な影響を同時に取り扱う手法の開発に成功した。さらに、粒子数方程式を解くことで化学ポテンシャルを求める数値解析手法の開発を行った。次に、従来、トラップポテンシャルの影響を取り入れるために広く用いられている局所密度近似では解析不可能な物理量である、対相関関数の解析を行った。その結果、系の温度を下げていくと、局所密度近似で得られている超流動転移温度近傍で対相関関数が急激に発達し、トラップポテンシャルの端まで広がっていくことを明らかにした。現在は、冷却原子気体において観測が可能である光電子分光スペクトルの解析に着手し、トラップポテンシャルの非局所的な影響と強結合効果の競合によって生じる新しい現象の観測可能性について研究を行っている。 また、これに加え今年度は、近年カリウム40において観測が行われたp波相互作用するフェルミ原子気体におけるp波コンタクトを、強結合理論を用いて解析することにより相互作用依存性及び、温度依存性を調べ、この物理量に対する強結合効果と有限温度効果について理論的に明らかにした。さらに、局所密度近似の範囲内でトラップポテンシャルの影響を取り入れることにより、実験結果との直接比較を行った。その結果、実験結果の振る舞いを定性的に再現することに成功した。また、p波コンタクトは原子数依存性を示すことを明らかにし、より精密な観測のためには相互作用の制御に加え粒子数制御も必要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究の核である強結合理論とトラップポテンシャルの影響を厳密に取り入れた理論の融合及び、構築された理論から得られる基本方程式の数値解法手法の開発に成功した。これにより、本研究の次の課題である“トラップポテンシャルが物理量に与える非局所的な影響を明らかにする”ための基礎は築けたといえる。現在、実際に、実験的に観測可能、もしくは従来の局所密度近似では解析不能であった物理量の解析に着手しており、先行研究と矛盾しない結果をすでに一部、得られている。 以上より、研究は計画通りに進行しており、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、トラップポテンシャルの非局所的な影響を解析する準備が整ったので、今後は、構築された理論を用いて、具体的な物理量の解析に移行する。その上で、まず、冷却原子気体において観測可能量である光電子分光スペクトルの解析を行う。先行研究により、強く相互作用するフェルミ原子気体では、常流動相においても、超流動転移温度以下において見られるようなギャップ構造が1粒子励起スペクトルに生じることが知られている(擬ギャップ現象)。トラップポテンシャルを有する系では、この擬ギャップ構造はトラップ中心に近づくほど顕著になる。これを反映し、光電子分光スペクトルにはバックベンディングカーブと呼ばれる特徴的なピーク構造が生じる。一方、このような空間変調するギャップ構造を有する系では、超流動転移温度以下との類推により、空間的に局在した状態が生じることが期待されるが、従来の局所密度近似ではこのような状態は記述できない。そこで、本研究で構築した理論を用いることにより、擬ギャップ構造の空間変調性による局所状態が生じる可能性について理論的に明らかにし、また、局所状態が現れた場合、光電子分光スペクトルにどのような影響を与えるかについて明らかにすることで観測可能性について議論する。また、この問題をより一般化することで、界面状態や反射の特性に対して強結合効果が与える影響を明らかにする。 以上の研究では系の微視的な物理量に注目してきたが、次に理論を拡張し、熱力学量の解析を行う。その中でも比熱は相転移、及び対形成現象に対して敏感であることが知られているため、その温度依存性から、本理論の問題点である相転移温度の導出、あるいは推測を試みる。
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