本研究課題では、燃焼反応或いは高層大気において重要な役割を果たす高温での気相分子の性質について光電子分光法を用いて研究することを目的としている。高温気体では、振動励起した分子が含まれるため、従来の室温での分子構造とは異なる光電子スペクトルが得られると考えられる。今年度は、昨年度までに開発した800℃まで加熱できるノズルに輻射熱を軽減するためのラジエーションシールドを加えて、半球型光電子分光器に取り付けて、加熱した気体分子の光電子分光を行った。 光源としてヘリウム光源を用い、室温および600℃まで加熱した二酸化炭素分子について光電子分光を行った。600℃まで加熱した二酸化炭素ガス中には、20%以上の変角振動励起した二酸化炭素分子が含まれると見積もられる。常温の二酸化炭素の光電子スペクトルは文献とよく一致し、基底状態からCO2+(X 2Πg)への遷移において対称振動モードに相当する振動バンドが観測された。一方、600℃の加熱した二酸化炭素では常温とわずかに異なる光電子スペクトルが得られ、常温との差分を取ることで、主に変角振動による振動バンドが観測された。このことは、600℃まで加熱したことにより変角振動励起され分子構造が変化したことを反映していると考えられる。今後は、量子化学計算を用いて曲がった分子構造における二酸化炭素分子のポテンシャル曲線を求め、振動準位間のフランク・コンドン因子を求めることで光電子スペクトルにおける振動バンドの解析を進める。
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