遊走細胞など自己駆動集団の数理モデルを構築し、その集団運動について大きく理解を進めました。内在極性を考慮した真核細胞の走化性遊走の数理モデルを多細胞に適用して、細胞間コミュニケーションとして特に接触遊走阻害(CIL (= Contact Inhibition of Locomotion))と呼ばれる、2細胞が触れたときに重なり合いを避けるよう能動的に内在極性を変化させるやりとりを行う場合についての集団運動を研究しました。主結果として、CILと排除体積が同時にあると、直接にお互いの進行方向をそろえようとする相互作用が無くても全体の遊走方向が揃い、かつ走化性の精度が一細胞のときより著しく向上することが明らかになりました。本結果は査読つき論文誌に公表済みです。 さらに研究計画当初の予想を上回る発展として、構築したモデルの汎用さから、細胞間コミュニーケーションつまり運動する要素間の相互作用を変更していくことで多彩な挙動が得られることがわかりました。構築した数理モデルにおいて細胞間コミュニケーションを適したものにするだけで、社会性遊走細胞である細胞性粘菌や、さらにバクテリアの集団移動挙動を再現できる可能性が見えてきています。さらには細胞だけでなく、細胞骨格系の運動アッセイの結果にも適用できることもわかり、対応する実験を行うグループたちとの共同研究にもつながっています。 また、骨髄性白血病細胞(HL60)細胞を用いた集団遊走アッセイ実験も行いました。クラスターとそのダイナミクスが観察されています。上述の拡張モデルを用いた結果と比較し、その再現に部分的に成功しています。
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