本研究課題の目的は、分子動力学シミュレーションで修飾入り核酸のシミュレーションを行うために必要となる、力場パラメータと呼ばれる値を決定することにある。2018年度までの研究では力場パラメータ作成を自動化するためのパイプラインを作成し、イノシン・N6-メチルアデニンと呼ばれる修飾入り核酸の力場パラメータの作成と検証、ならびにバイオインフォマティクス領域への応用を行った。更に、研究から副次的に生じた構造サンプリング手法をタンパク質に応用する研究を展開した。 2019年度には、2018年度までの成果の出版と、タンパク質への応用に注力した。2018年度までに計算していたイノシンのパラメータを元に自由エネルギー計算の追加解析を実施し、実験的測定結果との整合性を検証した。厳密な検討を行った結果、本課題で作成したイノシン入り核酸パラメータに基づく熱化学計算が、UV melting測定と化学的な精度で符合することを示した。興味深いことに、25対のイノシン-シトシン対を含むUV melting の実験的測定から得られた二次構造予測のためのパラメータ(nearest neighborパラメータ)と比較して、30対の自由エネルギー計算に基づくNNパラメータが同等またはより良い精度を持つことが示された。本研究結果はこれまで困難であった修飾核酸の二次構造予測を容易にすると考えられる。これらの結果を論文として投稿した。現在、査読結果に基づき論文の改訂を行っている。 また、本研究の副産物を用いて作成した、タンパク質の変異や修飾による熱安定性変化の予測パイプラインが化学的な精度で安定性を予測できることが明らかになった。現在論文を準備中である。更に当該年度末には、本研究課題で作成したパイプラインを利用することで、SARS-COV-2のRNAの5'-UTR構造についての研究を迅速に立ち上げることが出来た。
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