研究課題/領域番号 |
16K17779
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸一 東京大学, 地震研究所, 特任研究員 (10756331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乾燥亀裂 / 統計則 / 形状 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、乾燥収縮亀裂パターンにおける破片の統計則を実験・シミュレーション・統計モデルを用いて理解することである。昨年度は主に理論構築を推し進め、特に破片の形状に関する統計則についての統計モデルの構築を行なった。この統計モデルは破片の形状情報を破片が分割される過程へ考慮したモデルであり、これにより破片のアスペクト比に対する統計則を扱うことができるようになった。この研究成果は複数の国内学会および国際会議で発表された。それに引き続き今年度は、乾燥収縮過程において破片の形状がダイナミクスへ及ぼす影響を解析するために、フェーズフィールド法に基づいた乾燥収縮亀裂パターンを再現するシミュレーションモデルの開発を行なった。フェーズフィールド法はエネルギー原理に基づき亀裂を場のオーダーパラメータとして表すため、亀裂進展が計算に用いる空間格子に影響しない。このシミュレーションモデルによって、弾性場に依存した亀裂進展を自然に表現できるようになった。この研究成果は日本物理学会等で発表済みである。さらに、今年度は昨年度に引き続いて乾燥破壊実験を複数回実施し、多くの乾燥亀裂パターンの時間発展の写真データ、質量の時系列データを得ることができた。これらのデータの解析から、これまでの理論研究で予測されている統計則が定性的に成立していることが確認できた。この解析結果および、これまでの理論研究の結果は現在論文にまとめ、公表準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乾燥収縮亀裂パターンの統計則の解明のため、今年度までに統計モデルの理論構築・シミュレーションモデル構築・実験データの収集を行なってきた。統計モデルに関しては理論が成熟し、当初想定していた以上に進捗した。また昨年度進捗が十分でなかった実験を多く行ない、多くの乾燥亀裂パターンの実験データを得ることができた。さらに、今年度から新規にシミュレーションモデルの開発を行ない、パラメータスタディが十分でないなど不完全な段階ではあるものの、乾燥収縮亀裂における統計則のより詳細な解析へ向けた準備を整えた。これらの状況と本研究課題全体の目的を鑑みると、今年度は昨年度に比べ大きく研究が進捗したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの進捗状況を鑑み、次年度は (i)統計モデルと実験データを統合した破片形状統計則のより詳しい解析、(ii)フェーズフィールド法に基づくシミュレーションモデルの高度化を行なう。研究(i)により、実験データに基づき統計モデルに含まれるモデルパラメータの推定を行なうことで、これまでの理論研究の妥当性を検証し、破片の統計則から直接観測できない物性パラメータの予測手法の開発の可能性を模索する。研究(ii)は、破片形状を仮定しないフェーズフィールドモデルを用いたシミュレーションにより、乾燥収縮亀裂のより詳細な解析を行ない、これまでに知られていない新規統計則の発見を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当該年度は理論的研究に関する研究発表を行なうことができたが、実験的研究に関しては発表水準に至る結果が出始めた段階であるため、未だ研究発表には至っていないことから、旅費の計上が少なかったことが一因としてあげられる。 (使用計画) 次年度として請求した研究費と合わせた使用計としては、実験データの解析に用いる物品購入や論文出版のための経費、学会参加のための旅費に使用することを、などを計画している。
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