本研究の目的は、乾燥収縮亀裂パターンにおける破片の統計則を実験・シミュレーション・統計モデルを用いて理解することである。2017年度までに、(i) 乾燥収縮破壊の統計モデルの開発、(ii) 乾燥破壊実験の実施と得られたデータの解析、(iii) フェーズフィールド法に基づく乾燥破壊のシミュレーションモデルの開発を行なった。最終年度である2018年度は、研究(ii)および(iii)の高度化をそれぞれ実施した。研究(ii)については、実験で得られた乾燥収縮亀裂パターンの破片データを用いて、これまでに構築した理論で予測される統計分布と既往研究で提案されている統計分布をベイズ推論により比較した。その結果、本研究で得られた統計分布が既存の統計分布よりも実験データをよく再現することが分かった。また、研究(iii)においては、乾燥速度と弾性率場の不均一性を変えた網羅的なパラメータスタディを行ない、パターンとダイナミクスの定量化を試みた。これにより、本研究で開発したフェーズフィールドモデルが亀裂パターンを形成するには乾燥速度と弾性率場の不均一性パラメータに一定の関係があること、弾性場の発達と乾燥速度に依存して質的に異なるパターンが発現することが分かった。これらのの結果は、パターンの解析を詳細に解析することで、過去にその物質が経験した乾燥プロセスを読み取ることができることを示唆している。これらの研究成果は、国内外学会にて公表された。今後は本研究で得られた理論と実験データと統合する数理基盤技術を開発し、定量的なパラメータの推定を通して、破片の統計則およびそれの元となる破壊の素過程の解明を目指す。
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