研究実績の概要 |
今年度は, 主に本研究課題の研究の方向性を押し広げる研究を行うことができたと考えている。特に大きな成果として, Master方程式で記述される確率的な生化学反応を情報幾何上の運動とみなし, 情報幾何における幾何学的な量と熱力学量と関係づけるという成果を出すことができた。本研究によって、確率過程で記述されるような生体シグナル伝達系や酵素反応系などにおいて, 情報幾何における幾何学的な量を熱力学的なコストとして解釈できることを明らかにできた。またその結果として、幾何学的な不等式から熱力学的不確定性関係を導出し、化学反応によって状態変化する際に速度と熱コストがトレードオフ関係にあることが示すことができた。この結果により、生化学シグナル伝達における情報伝達と熱力学的なトレードオフを, 情報幾何的な幾何学上の関係としてみなすことができるようになった。
この研究自体は, 生化学系の情報伝達と情報熱力学の関係を明らかにするという本研究課題のテーマにおいて、非常に重要な位置付けを占める内容である。この研究自体は研究計画の段階では想像していなかった成果あるが、本研究課題において達成できた特筆すべき成果だと考えている。 この熱力学と情報幾何の関係は今後も発展可能だと考えており, 昨年度まで進めていた体内時計などのシグナル伝達系の情報熱力学の研究により接近した内容への拡張が期待される。
また, 昨年度までに行っていた研究である情報熱力学とシグナル伝達系や体内時計の研究も引き続き行っている。
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