研究課題/領域番号 |
16K17781
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 量 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (10768071)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 再生組織の物理 / 非平衡形状揺らぎ / 対称性の破れ / 自己駆動型粒子 |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生の初期過程において極めて重要である体軸の決定機構を解明するため、発生過程のモデル実験系として頻繁に用いられているヒドラに着目し研究している。 当該年度以前までには(A)ヒドラ切片と(B)単離細胞を再凝集した塊の再生過程における形状揺らぎを、全モード解析によって定量的に解析した。ここではモードの時間発展は類似しているものの運動(並進・回転)が全く異なることを明らかにし、その理由に迫るため、組織の変形や運動を可能とする細胞骨格構造の時間発展の定量に取り組んだ。その結果、ヒドラ切片では常にヒドラの成体に特有な格子状のアクチン構造が見られる一方、再凝集系ではランダムなアクチン配列から始まり、再生する過程で格子構造を形成する、という異なる時間発展プロセスを明らかにした。この結果は、再凝集系に特徴的な、形状の対称性の破れがヒドラ切片に比べて遅くかつ運動が見られないという結果を説明する上で大変興味深い。 また変形・運動だけでなく、体軸形成に影響を及ぼすWntシグナル経路はヒドラの再生過程において大変重要な要素である。再生過程における組織の変形とこのシグナル経路の関係を探るため、Wntシグナル経路の活動を促進・抑制した遺伝子的摂動下での形状揺らぎの全モードの解析も行った。その結果、(1)促進した際はヒドラの再生過程に特徴的なpump-burst cycle(大きさが徐々に増加し、破裂するサイクル)の回数が減る一方、(2)抑制した場合には再生することなく、pump-burst cycleも見られなかった。 また、変形する組織の理論構築に着手し、モードの時間変化と張力・弾性といった物理的制約の関係式から全モード解析で得られたモード0と2が逆位相になるという現象を準定量的に再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画において当該年度には、(1)環境因子がヒドラの再生過程に与える影響の定量的な解析と(2)理論構築を計画した。 (1)においては、体軸形成に影響を及ぼすWntシグナル経路のような内部因子の活動を促進・抑制した場合の形状揺らぎの全モードの定量解析を行った。これまでは定性的な振舞いの理解に留まっていたが、pump-burst cycleの周期や軸方向への変形(モード2)の時間変化を今まで得られた結果と定量的に比較した。また、成体への再生スピードだけでなく、初期の口の生成(体軸決定に伴い、細胞が分化し起こる現象)時期がWntシグナル経路の活動を促進した場合、著しく早まったことを突き止めた。 また(2)においては、変形する自己駆動型粒子のモデルをもとに、周期的な粒子サイズ変化とモード2の変形度の関係式を作り、それに張力や弾性といった物理的制約を加えた。これらの関係式に、実験で得られた組織のサイズ変化(モード0)のデータを代入したところ、実際に全モード解析で得られたモード0と2が逆位相になるという現象の再現に成功し、対称性の破れ(体軸決定)の統合的理解に一歩近づき、計画通りに進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
体軸形成に影響を及ぼすWntシグナル経路分子を使った実験で非常に興味深い結果がでたため、他の分子で経路の様々な場所に摂動を与える実験を行い、これまでに得られた結果を更に裏付けることで、当初の研究目的をより精緻に達成することを目指す。 また、得られた結果について研究成果を学会で発表するだけでなく論文にまとめ国際誌に発表するなどの成果報告を順次進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 共同研究者のHolstein教授(ハイデルベルグ大学・ドイツ)を訪問して研究の打ち合わせを予定していたが、国際学会で同席する機会があり、その際に今後の研究方針について必要な打ち合わせを行うことができた。 (使用計画) 当該年度に計上していた旅費は今後Holstein教授を訪問するための旅費として使用することを予定している。また、研究成果をまとめる作業や発表のための旅費および会議参加費として予算を使用する。
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