胚が球形から体軸を決定する過程を解明するため、発生過程のモデル実験系として頻繁に用いられているヒドラに着目し、非平衡形状揺らぎの全モード解析という物理的リードアウトによって定量的に解析する。 当該年度以前までは(1)初期条件の全く異なるヒドラ切片と単離細胞を再凝集した塊の再生過程における形状揺らぎの全モード解析、(2)変形する組織の理論構築、そして(3)体軸形成に極めて重要であるWntシグナル経路が再生過程に与える影響を定量解析した。 特に(3)においては昨年度、Wntシグナル経路の活動を促進・抑制することによるヒドラの再生過程に特徴的なpump-burst cycle(大きさが徐々に増加し、破裂するサイクル)の周期や軸方向への変形(モード2)の時間変化への影響を定量解析した。また、成体への再生スピードだけでなく、初期の口の生成(体軸決定に伴い、細胞が分化し起こる現象)時期がWntシグナル経路の活動を促進した場合、著しく早まったことを突き止めた。 本年度の実績をしては上記の(3)の結果を発展させるため、これまでの遺伝子的摂動によるWntシグナル経路の促進に加えて、Wntシグナル経路を外部から促進可能な分子を用いた実験を行った。その結果、(3)と同様の結果が得られた。また、Wntシグナル経路の活性化と対称性の破れのタイミングについて調べた。再生過程のさまざまな時点でWntの発現量を測定したところ、形状の対称性が破れる前に発現が開始していることを解明した。これらの結果から、Wntシグナリングが対称性の破れのタイミングを制御していることがわかった。
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