研究課題
氷天体の熱進化を高精度かつ高速に計算するプログラムの開発を行った。氷天体内部の海が存在する時間を理論的に調べるためには、衛星内部から宇宙空間へどれだけの熱エネルギーが散逸し、またどれだけの熱エネルギーが生成されるかを知る必要がある。後者についてはある程度見積もりがあるものの、前者については不明な点が多い。その原因は、氷地殻の対流を計算するコストが非常に大きいため、これまでは天体を限定し、しかも数パターンでの計算を基にした議論しかなされてこなかったからである。本研究では、コストの大きな計算なしに、1次元修正混合距離理論を用いて正確な熱進化の描像を得るプログラムを開発した。これは、3次元計算で得られたRa-Nu関係を再現するような混合距離を用いることで実現した。このプログラムを元に、土星の氷衛星エンセラダスとディオネの熱進化について検証した。その結果、エンセラダスでは対流はあまり起こらず、一方のディオネでは対流が起こることが分かった。また、ディオネに深い海があるという先行研究の結果は、熱進化からは支持されないことが分かった。これらの結果は、査読付き国際惑星学雑誌「Journal of Geophysical Research Planets」に掲載された。また、氷衛星の内部構造に関する国際共同研究を展開している。内部海における発熱の研究結果は、現在査読中であり、また内部構造と将来探査の関連についての論文が「Journal of Geophysical Research Planets」に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の柱となる、高精度・高速な1次元惑星内部熱構造進化計算プログラムを完成することができた。それを使い、土星系氷衛星エンセラダスとディオネの内部熱進化についての知見を得、その結果を査読付き国際誌に掲載することができた。加えて、冥王星を対象とした氷地殻緩和についての研究も順調であり、学会発表を控えている。以上より、研究は順調に進展しているといえる。
予定通り、熱進化・緩和計算を進めると同時に、軌道計算のコーディングを行い、熱進化計算プログラム・潮汐加熱率計算プログラムと結合する。それを用いることにより、氷衛星の熱構造・軌道要素の共進化を明らかにする。具体的な対象は、惑星探査を控えている木星系氷衛星エウロパやガニメデとする。得られた結果は、国際・国内学会での発表に加え、査読付き国際誌へ投稿し、論文掲載を目指す。
初年度においてトルコ・イスタンブールで開催予定であった国際学会COSPARが開催直前にクーデターの影響で中止となったため、その学会用に計上した旅費が繰り越された。同学会は2年に1回である。本年度新たな成果を含めて同学会で発表することになっており、繰り越した額の大半はその旅費に充てられる。また、残りは論文出版費用として使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J. Geophys. Res. Planets
巻: 123 ページ: 180-205
10.1002/2017JE005341
巻: 123 ページ: 93-112
10.1002/2017JE005404
https://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~kamata/