研究課題/領域番号 |
16K17789
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大谷 真紀子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (80759689)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 粘弾性媒質 / 応力場 / 境界要素法 / 断層すべり / 等価体積力法 / H行列法 |
研究実績の概要 |
本研究は「断層面の三次元幾何形状を考慮した境界積分法(BIEM)粘弾性準動的地震発生サイクルモデル(ECS)」を構築し、南海トラフ周辺で発生する複数のすべり現象の相互作用を、粘弾性応答の効果を考慮し検証することを目的とする。 平成29年度は、断層面上のすべりによる応力場の評価において、BIEMをベースに非弾性歪みによる応力場を評価する等価体積力法(equivalent body-force method; Barbot and Fialko, 2010, Barbot et al., 2017)を導入し、粘弾性歪みによる応力場を考慮した。平成28年度はメモリ変数法を用いた粘弾性応答を考慮した計算手法の開発を進めていたが、上記等価体積力法の方がより三次元の大規模計算に適していると考えられるため、本年度はこれを用いた計算手法開発に取り組んだ。等価体積力法では粘弾性変形する領域を立方体セルに分割し、各セルでの非弾性ひずみを等価な体積力に置き換えることで、弾性体中のひずみ-応力関係を示すグリーン関数を用いて粘弾性ひずみを考慮した応力場を計算することが可能となる。本手法を用いて非弾性歪みによる応力場を求めるには粘弾性媒質の分割セル個数N_viscoに対してO(N_visco**2)の計算量が必要であり、南海トラフの巨大地震を対象に本手法を用いるにはN_viscoが大きくなるため計算量を削減する必要がある。そこで本研究では、上記手法に密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を導入し、計算量の削減を行った。また本手法を用いて、1944/46年昭和東南海/南海地震南海東南海地震が周辺の火山に及ぼす応力変化の時間発展を、単純な粘弾性構造を仮定して求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
等価体積力法を用いるとき、各媒質セルの非弾性歪みが各時刻に作り出す応力場は、非弾性歪み×グリーン関数の形で書くことができる。非弾性歪み・応力場の時間発展を得るには、各時刻で、各成分に対してこのグリーン関数を要素に持つ行列K(N_visco×N_visco行列)と歪みベクトル(N_viscoベクトル)の掛け算を行う。この計算にかかる計算量がO(N_visco**2)であり、律速部となる。そこで、H行列法を用いて行列の圧縮を行った。その結果、例えばN _visco = 69,120のときKはメモリ量が0.17倍、K×歪みテンソルの計算にかかる時間は0.05倍となった。またN_viscoの増加に対して計算量はおよそN_visco log(N_visco)で増加し、H行列方は本問題に対して有効である。また本手法を用いて、弾性-粘弾性体が水平成層構造をなす単純な構造を仮定したときの、1944/46年昭和東南海/南海地震が周辺地域に及ぼす応力変化の時間発展を求めた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は等価体積力法にH行列法を適用し、その有効性を確認した。これにより計算の省メモリ化・高速化を行うことが可能となった。ただし、本手法を用いて1944/46年昭和東南海/南海地震を対象に行った計算は、一回の地震が作り出す応力場の時間変化である。今後は、南海トラフのようなプレート沈み込み帯において地震発生のサイクルを扱えるように計算手法を拡張する。そこでは、粘弾性体部におけるプレートの駆動が問題となる。弾性体のみを扱う時には、通常長期的プレート沈み込み速度を与え、長期的にプレート境界面上の応力がゼロになるように設定する。これを本手法に拡張するには、弾性体のときと同様に、粘弾性媒質部に長期的非弾性歪み速度を与える必要がある。今後、問題に適した長期的非弾性歪み速度場を検証し、地震発生サイクル計算を実現する。また、与える長期的非弾性歪み速度場によって、必要な計算精度を与える粘弾性媒質セルの設定は変化するはずなので、これについても同時に検証を行う。 以上により、沈み込むプレート境界の周辺領域において、地震のサイクルに依存する応力場の時間変化を得ることができる。H28年度に取り入れた応力蓄積過程・地震時のふるまいを近似的に扱うRSQSim(Dieterich, 1995)を本手法にも取り入れ、内陸等の周辺領域で孤立して発生する地震を同時に扱う。これにより、海溝型地震と内陸地震の相互作用を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に投稿予定であった論文の投稿が来年度に持ち越しとなったため、それに関して予算として計上していた論文の英文校正費用・投稿費用を来年度に繰り越した。繰り越した予算は、来年度論文投稿にかかる費用として使用する。
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