研究課題/領域番号 |
16K17791
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
三井 雄太 静岡大学, 理学部, 助教 (80717950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 内陸地震 / 弱い断層 / 歪み蓄積 / スロースリップ / 誘発 |
研究実績の概要 |
本年度は、4月14日から断続的に発生した熊本地震(最大のものは4月16日に発生したマグニチュード7級の地震)の発生過程について、主として研究を行った。これは、当初の計画では予定に入っていなかったものである。国土地理院によるGNSS観測網が整備されてから後、かつ、2011年東北地震による擾乱を受けるより前、の期間に相当する、2000年から2010年にかけての地殻変動データに着目した。このデータには、過去の地質学的・測地学的研究で提唱されてきた別府-島原地溝帯という領域での、南北伸張および沈降のトレンドが系統的に見られた。このデータと、九州地方中部の沈み込みプレート境界・火山・内陸断層(ブロック境界)のモデルに基づき、インバージョン解析を行った(Mochizuki and Mitsui, 2016)。その結果、4月16日の最大の地震で大きなすべりが生じた断層セグメントに相当する場所で、それらの隣接セグメントに比べて1ケタ小さな歪み蓄積速度が推定された。これの解釈としては、当該セグメントにおいて、ひとたび破壊が起こるとM7級まで成長する状況になっていた、というのが自然であろう。この結果は、海溝型地震に比べて繰り返し間隔が非常に長いことが知られている、内陸地震の繰り返しに伴う断層の状態変化へ1つの知見を与えたものと言える。また、最大のM7級地震より前に発生した4月14日のM6級の地震の後に、スロースリップの一種であるアフタースリップが顕著に発生したことが確認されており、このアフタースリップによる弱い断層上でのM7級地震の誘発の可能性について、次の検討課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、計画段階にはなかった熊本地震の発生により、そちらの解析に大きなリソースを割くこととなった。このため、当初の計画からやや遅れた進行となった。当初の計画に沿ったものとしては、主として境界要素法計算コードの並列化率の改善を行い、以前に比べておよそ倍の速度での数値計算が可能になった。数値計算の出力結果が膨大になるため、それを一挙に読み込んで分析するためのコードの整備を行った。とりわけ、統計解析のためのアルゴリズムをより高度なものへと変更し、効率的かつ適切な分析を行えるようにした。これは、当初の計画にある「不均質断層上での地震規模の統計的性質を得ると共に、地震発生の空間パターンを特徴付ける」を行う上で、重要な進展と言える。当初の計画のうちで、「スロースリップが隣接域の大地震を数日以内に誘発する条件を絞り込む」に関しては、最大地震が2日前の地震のスロースリップ(アフタースリップ)に引き続いて生じたようにも見られる熊本地震という実例が生じたため、それを考慮に入れた実験を行った。予備的な実験によると、通常考え得るような、スロースリップが無くても大地震が数日以内に自発的に生じるような状況でない限り、スロースリップによる数日以内の大地震の誘発(見かけ上)は生じ得ない。これは断層が相当に弱い場合においても変わらない傾向にあり、この方面からのアプローチについては再考の余地があることがわかってきた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、「強度の低さが断層すべりの速度・拡がり・相互作用にどんな制約をかけ、どんな特徴を与えるのか」という観点から、統計的不均質を与えた断層上でのすべり時空間発展の数値実験を本格的に行う。特に、最近出版された、海溝型地震における応力降下量とその場所で起こる最大地震規模との関係を示唆する先行研究を参考として、弱い断層上で起こり得る最大規模の地震のデータベース作りに取り掛かる。これに関しては、技術的困難はほとんど解消済のため、ある程度の成果が出ることを見込んでいる。一方、本研究の初年度に実施した熊本地震に関する解析(Mochizuki and Mitsui, 2016)から、M7級の最大地震に先行する時期(2000-2010年)に当該断層セグメントで歪み速度が小さくなっていたことが示唆された。この歪み速度の低下は、時間的に生じたものか空間的に元々そうであったものか、それ以前の観測データが十分に存在しないために、判別が困難な状況にある。歪み速度の低下の要因として、断層の弱化により遠方載荷と同程度の定常的なすべりが生じていたため、という解釈が可能である。このようなことが時間変化の結果として生じ得るのかどうかを、数値モデルの観点から検証する研究が1つ考えられる。もしそのような時間変化による説明が不可能であれば、M7級地震の場所は、歪み速度の小さな領域として予め空間的に定まっていた、と考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた「人件費・謝金」が、研究の進行に変更があったことから(熊本地震発生のため)、不要となったため。「その他」が不要となったのも、研究の進行の都合による。これらの予算を、物品費の増額で対応した。研究上、必要な物品のみを購入した結果、若干の余りが出ることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の余りのぶんは、次年度以降の「その他」に主として回す予定である。具体的には、英語論文の校正代や投稿代とする。
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