研究課題/領域番号 |
16K17791
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
三井 雄太 静岡大学, 理学部, 講師 (80717950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 重力 / 年周変動 / 地震誘発 / 断層強度 / 荷重変形 |
研究実績の概要 |
本年度は、低強度の断層上で力学的に期待される、小さな応力変化による地震誘発の問題に焦点を当てた。具体的には、地下水モニタリングを主目的として打ち上げられたGRACE衛星により15年以上にわたってモニターされてきた地球上の重力の変動と、地下で発生している地震活動との関係に着目した。プレート境界とプレート内部では明らかに地震活動度が異なるため、これらを一まとめにして解析しても、意義のある結果は得られない。そのため、プレート沈み込み帯にターゲットを絞った。地震活動を扱う上では、大きな地震の余震活動および余効変動による誘発地震活動がノイズとなる。そのため、ETASモデルに基づく背景地震活動度のパラメータ推定を行った上で、近年M7.5以上の大きな地震が発生した領域を解析から除外した。その結果、重力の年周変化が大きい領域で背景地震活動度が高くなるような、正の相関(中程度)が見出された。この原因として、重力の年周変化の主要因である地表水の季節変動が、荷重変形によって、地下の断層へ周期的な応力変化を与えることが考えられる。この応力変化の程度は、大きくても1kPaと見積もられる。沈みこみ帯の地下で発生する中小規模の地震活動がこの程度の応力変化の影響を受けるということは、地震断層の強度が全体として低いことをサポートする内容である。本研究の内容は、EPS誌から出版され、Earth Planets Space誌のhighlighted papers 2018に選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、全世界の重力データと地震活動データを用いた統計解析により、沈み込み帯で発生する地震活動が地表水の季節変動の影響を受けていることを明らかにした。因果関係は必ずしも確定できないが、地表水の季節変動による地下の断層への周期的な応力変化が地震を誘発している可能性がある。低強度断層における地震発生過程の新たな一面を見出したもので、当初の予定には直接含まれなかったものの、本研究計画で達成された重要な成果と言える。また、前年度に並列化率が改善された境界要素法計算コードを用いることで、複数の断層上での摩擦構成則と弾性体力学とをカップリングした数値実験を、実用的な時間内で可能とした。予備的な研究として、地表で観察されるような並行する2本の断層モデルを設定した。このモデル上での数値実験から、断層間の弾性的相互作用により、低強度断層上でのスローなすべりイベントの繰り返しが一時的に(相対的)高速すべりイベント化するような挙動が見いだされつつある。この挙動は、古典的な静弾性力学ではストレスシャドウの関係となる断層上でのもので、非自明な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度のため、研究計画中でこれまでの達成度がもっとも低い「強度の低さが断層すべりの速度・拡がり・相互作用にどんな制約をかけ、どんな特徴を与えるのか」という内容をまとめていく。この観点から、現在進行中の、複数の断層上での摩擦構成則と弾性体力学とをカップリングした数値実験の内容を、論文として公表する。特に、摩擦構成則の細部に依存する結果と依存しない結果を切り分け、より一般的には何が言えるか、という観点から結果を解析する。また、今年度に出版された研究内容である、全世界の重力データと地震活動データを用いた統計解析について、沈み込み帯でない地域、具体的には発散境界や横ずれのトランスフォーム境界でどのような結果が得られるかについて、同様の手法を用いて検証を行う。もし、地表水の季節変動による地下の断層への周期的な応力変化が沈み込み帯の地震活動(主として逆断層)に影響を与えているのならば、正断層や横ずれ断層が卓越する地域では異なった結果が得られると予想される。
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