2019年度は、足摺岬沖の大陸斜面上に設置していた海底電位磁力計1台を回収した。また、これまでに設置・回収した全てのOBEMについてMTインピーダンスを求め、見かけ比抵抗・位相に変換した。これによると、見かけ比抵抗はいずれの観測点も低周波側で低く、長周期側で高いという特徴を示す。これらは、海底下の表層に分布する抵抗の低い堆積層に起因すると考えられる。また、周期100から1000秒の帯域において、xyまたはyx成分のいずれかの見かけ比抵抗が高くなり、位相が低くなる特徴を示す。これらは海陸境界付近におけるMTインピーダンスの特徴を反映していると考られる。 次に、得られたMTインピーダンスを説明する2層構造近似の比抵抗モデルをフォワードモデリングによって求めた。その結果、厚さ2-8kmの表層の低比抵抗層(3 ohm-m)と、その下の一様な媒体(50 ohm-m)からなるモデルが、最もMTインピーダンスを説明することが明らかとなった。特に、先述の100-1000秒における見かけ比抵抗の高まりおよび位相の低下はが再現できている。一方で、このような単純モデルでは得られたインピーダンスは説明できず、地下の構造がより複雑であることが示唆される。また、本解析を通してTada et al.(2012)によるフォワード・インバージョンコードが海陸境界部における三次元比抵抗構造の解明に適用可能であることを示された。このため、今後は他のプロジェクトによって得られた海陸のMTデータと統合解析を行うことにより、南海トラフ西端部の詳細な比抵抗構造の解明が進むと期待される。
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