研究課題/領域番号 |
16K17794
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
保井 みなみ 神戸大学, 理学研究科, 助教 (30583843)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | クレーター形成実験 / サボシステム / 高速度 / 衝突溶融層 / 未焼結雪 / 極低温 / 冥王星 |
研究実績の概要 |
冥王星の表面年代の推定に必要なモデルを構築するには、冥王星の地殻構成物質である水氷のクレーター形成実験を行う必要がある。29年度は前年度に引き続き、クレーター形成実験を行うための装置開発とその予備実験を行った。また、既存の高速度衝突装置を用いた多孔質氷の高速度クレーター形成実験を開始した。 冥王星は50K以下と極低温で、その表面の水氷は未焼結状態であると考えられている。未焼結の氷粒子集合体を標的としたクレーター形成実験を行うため、前年度から新たな弾丸加速装置の開発を行っている。装置は、設置を予定していた低温装置付きチャンバーではなく、低温室内の大型チャンバー(真空度20Pa)に取り付けた。これにより、より簡易に発射準備ができるようになった。この装置は高圧部に導入するHeガス量と弾丸の質量によって、速度を制約する仕組みとなっている。そこで、銃身内径と同じ直径4.5mmのポリアセタール球を弾丸に用いて、ガス量を0.5-11気圧まで変化させて弾丸速度を調べた。その結果、110-165m/sと変化することが確認された。また,直径2mmの弾丸を加速するため、サボシステムを用いた弾丸加速を行った。その結果、弾丸のみを標的に衝突させることに成功し、その速度は60-180m/sとなることが確認された。 小天体は数km/sで冥王星に衝突することも考えられるが、上記の装置では高速度は再現できない。そこで、既存の高速度衝突装置を用いた雪のクレーター形成実験を開始した。標的は、2-7日間焼結させた空隙率50-60%の雪を用いた。弾丸は2mmのアルミ球で、衝突速度は2.5または4km/sとした。その結果、標的中央に形成された深い孔周囲にスポールと呼ばれる引張力によって形成した浅い孔が確認された。さらに、深い孔の壁面と貫入した弾丸の周囲には衝突溶融層、さらに深い孔の入口には圧密層が観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度は、新たな弾丸加速装置を開発・導入し、予備実験により装置の特性であるガス量と衝突速度の関係を、大気圧下および真空下、両方において明らかにすることが出来た。そして、銃身内径より小さな弾丸も、サボシステムを用いて加速することに成功した。この予備実験により、未焼結雪を用いたクレーター形成実験を開始することができる。ただし、そのためには、サボシステムを用いた弾丸加速において、弾丸の後方から加速されてくるHeガスが、サボストッパーによって完全に停止し、標的に弾丸が衝突した後にHeガスによって標的からの噴出物の軌道が乱されないかを確認する必要がある。29年度はそのガス停止確認実験を行うまでに留まり、未焼結雪を用いた実験まで至ることができなかった。 一方で、サボシステムによって後続ガスが停止するかは現在試験を行っているところであり、まもなく完了する予定である。また、未焼結雪の作成方法の確立も現在行っているところであり、その後すぐに未焼結雪のクレーター形成実験は開始することができる。さらに、幅広い衝突速度でクレーター形成実験を行う必要があることがわかったため、そちらは既存の装置を用いて29年度末から開始し、継続して今年度も行うことにしている。 以上のことから、未焼結雪を用いたクレーター形成実験の開始まで至っていないが、その準備はほぼ完了していることから、「やや遅れている」という判断をした。
|
今後の研究の推進方策 |
30年度は、最初に29年度に開発を完了し、衝突速度とガス量の関係が明らかとなった弾丸加速装置を用いて、弾丸の後ろから来るガスをサボシステムによって停止させることができるかどうか確認するため、ガラスビーズを標的に用いた予備実験を引き続き行う。その後、未焼結雪を用いたクレーター形成実験を開始する。 未焼結雪標的は、液体窒素に水を噴霧し、急冷して作成した氷粒子を用いて作成する。その氷粒子を一度回収し、その氷粒子を詰めた容器に再度液体窒素を流し入れ、そのまま真空チャンバー内に設置する。チャンバーは真空引きを繰り返すことで、液体窒素を固体窒素、そして気体の窒素へ相転移することが出来るため、氷粒子をほぼ未焼結のまま保つことが可能となる。 この未焼結雪標的を用いて、衝突速度が60-180m/sの範囲においてクレーター形成実験を行う。弾丸には、直径2mmの鉛球、ステンレス球、アルミ球、ナイロン球を用いて、弾丸の密度によるクレーター形成過程(クレーター形状やクレーターからの氷粒子の噴出の様子)の違いを調べる。また、雪標的の焼結度の違いを調べるため、焼結した雪(冷凍庫で数時間から数日保管)を用いた実験を行う。 さらに、衝突速度による違いを調べるため、既存の高速度衝突装置を用いたクレーター形成実験を29年度に引き続き行う。高速度の場合は、衝突速度を1~6km/sとする。この加速装置は横型であるため、標的は焼結した雪のみを用いることにする。 最後に、クレーター形成実験から確立したクレーターサイズのスケール則を用いてクレーター年代学モデルを構築し、冥王星の表面年代の推定を行う。冥王星のクレーターサイズ分布については、NASAの探査機New Horizonsの観測データを用いる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)29年度に設置した弾丸加速装置は、本来ならば低温装置付き真空チャンバーに取り付ける予定になっていたが、より簡易に実験、発射準備が行えるように、低温室に設置されている既存の大型チャンバーに取り付けることにした。そのため、低温装置付き真空チャンバーの改良を行う必要がなくなった。
(使用計画)30年度は、まず弾丸加速装置の予備銃身を確保する。現在、銃身は1本のみ使用しているが、非常に細くて何度も使用すると湾曲する可能性がある。この銃身はSwagelok社に製作を依頼したが、部品の溶接技術が特殊であり、1本5万程度であることを確認している。次に、クレーターの形状プロファイルを測定するための、レーザー変位計を購入する。大型チャンバーに弾丸加速装置を取り付けたことで、標的試料を低温下で回収することが可能となった。そのため、購入予定であった測定範囲の広いラインレーザ変位計ではなく、測定範囲が小さくてより安価な1次元レーザ変位計を購入する予定である。また、年代学モデル計算に用いるPC(iMac)を購入する予定である。最後に、衝突実験で用いる消耗品(ヘリウムガス、弾丸、弾丸加速装置用のOリング、ガスボンベレギュレータのカップリング部品)を逐一購入する予定である。10月中旬に北海道旭川市立科学館で行われる日本惑星科学会において、この実験の途中経過を報告する予定であるため、その旅費に使用する予定である。
|