30年度は前年度開発した装置を用いて,極低温下における未焼結多孔質氷のクレーター形成実験を行った.また,前年度に引き続き,既存の高速度衝突装置を用いた多孔質氷の高速度クレーター形成実験を行った。 氷衛星や冥王星の表面温度は-200~-100℃以下と極低温で,尚且つその範囲が広い.このような天体表面のクレーター形成過程を明らかにするため,多孔質氷を用いたクレーター形成実験を行った.装置は前年度開発した縦型一段式軽ガス銃を用いて,衝突速度は72~177m/sとした.雪の物性は周囲の大気圧で変化するため,大気圧下と真空下(200Pa以下)で実験を行った.温度は試料容器に設置した熱電対を用いて実験前の温度変化を計測し,-206~-53℃と変化させることができた.実験の結果,クレーターサイズや形状は大きく4つの条件(温度と大気圧)で変化し,温度が-145℃以下で真空下の場合,同じ衝突速度で最もクレーターサイズが大きくなった.さらに,クレーターから放出される氷粒子の様子が砂クレーター形成時に観察される重力支配域の様子と非常によく似ていることがわかった.これらの実験から,雪の重力支配域におけるクレータースケール則を構築し,その温度・圧力条件を明らかにすることができた. また,前年度に引き続き,既存の高速度衝突装置を用いた雪のクレーター形成実験を行い,衝突溶融層の形成条件とクレータースケール則に対する空隙率の影響を調べた.標的は,2-7日間焼結させた空隙率50-70%の雪を用いた.衝突速度は1-6km/sの範囲で系統的に変化させた.実験の結果,衝突溶融は空隙率が高いほど,より高速度で確認された.また,スポールと呼ばれる引張力によって形成した浅いクレーター孔に対してクレータースケール則を適応した結果,空隙率の依存性が確認され,これが衝突溶融度と関連している可能性が示唆された.
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