研究課題
本研究では直接観測では検出不可能なキロメートルサイズの太陽系外縁天体(TNO)の個数密度に観測的制約を与えることを目指して、小型で広視野な高速可視観測システムを計2台作成し、2台の観測システムを用いた掩蔽同時モニタ観測を沖縄県宮古島市にて実施した。キロメートルサイズの TNO による恒星掩蔽は予想される発生頻度が極めて低く (1年間で1恒星あたり0.01回未満)、継続時間が 1 秒未満と短い現象である。こうした短い時間スケールで発生する稀な恒星変光現象を検出するために、本研究では有効口径約30 cmの Rowe-Ackermann Schmidt Astrograph 光学系の主焦点に民生品の短縮光学系と可視ラージフォーマットCMOS カメラを組み合わせたモニタ観測システムを計2台開発した。この観測システムは、小型でありながら極めて広い視野を高時間分解能で観測でき、しかも先行研究と比較しても低予算で作成できることから、将来的に量産が容易であることが特徴である。作成した観測システム2台は沖縄県宮古島市に配置し、2016年6月から9月にかけて、同一視野を同時観測して掩蔽現象の同時検出を目的としたモニタ観測を断続的に実施した。さらに本研究ではモニタ観測で得られた膨大な同時観測データからサブ秒スケールでの恒星光度変化を検出することに特化した解析プログラムを開発した。開発したプログラムを用いて、観測データ内の約4000個の恒星に対して開口測光を実施し、光度曲線を得ることに成功した。得られた高度曲線のシグナル値に対するノイズの大きさを測定し、測光した約4000個の恒星の高度曲線から、カイパーベルト領域に存在するキロメートルサイズ以上のTNOによる恒星掩蔽が検出可能であることを推定した。以上の研究成果をまとめた論文を作成した。現在、作成した論文は投稿手続きを完了し、査読中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画通り、TNOによる恒星掩蔽現象を検出することを目的とした広視野高速観測システムの作成が完了し、モニタ観測の実施も達成できた。予算の都合上、観測時間は当初の計画より少ないものの、データ特性の評価の結果、得られたデータは恒星掩蔽の検出が十分に期待されるものであり、観測装置が当初の計画どおりに作動していることを示している。また、莫大なデータ量の高時間分解データから既知の恒星の光度曲線を作成する解析プログラムも作成することに成功した。以上の結果から、本研究は概ね順調に進展していると評価できる。
平成29年度は作成した観測システムを用いたモニタ観測を継続して実施する。また、作成したデータ解析システムにも改良を加え、TNOによる恒星掩蔽現象の検出を目指す。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 68 ページ: id.35 15 pp.
10.1093/pasj/psw024