研究課題/領域番号 |
16K17799
|
研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
河口 沙織 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00773011)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 液体鉄合金 / 弾性波速度 / 密度 / X線非弾性散乱 / X線回折 / 高温高圧 / 地球外核 |
研究実績の概要 |
地球外核は液体鉄合金で構成されている。1950年代前半に行われた先行研究ですでに、実験的に得られた純鉄の密度と地震波速度観測より得られた地球核の密度を比較し、地球核の密度は純鉄の密度より小さいことが示されている。この事象はCore density deficit problem と称され、地球科学最大の謎のひとつとして地球科学のホットトピックであり続けている。現在、地球・宇宙化学的研究より、外核の約10%の密度欠損に相当する軽元素として水素、炭素、酸素、ケイ素、硫黄が有力候補としてあげられているが、その種類、含有量は未だ決定されていない。そこで本研究ではこれまでに報告されている地球化学的見地を踏まえ、液体鉄硫黄合金に着目し地球外核に相当する高温高圧下における弾性波速度決定を行うことで、地球外核組成に制約を与えることを目的とした。本研究では外部抵抗加熱式・レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルとSPring-8 のBL10XUにおけるX線回折測定システム、BL35XU における高分解能X 線非弾性散乱分光装置を組み合わせ、高温高圧下における液体鉄硫黄合金の弾性波速度測定を行った。地球外核地震波速度データは地球深部から得られる唯一の直接の観測量であり、実験的に測定された弾性波速度と地震波速度を比較する本研究手法は、地球外核組成に制約を与える最良の方法といえる。平成28年度にはSPring-8 BL10XU、BL35XUにおいて液体FeNi3S,液体Fe-S合金(10 wt%の硫黄含有のX線回折測定、高分解能X線非弾性散乱測定を行い、密度データ弾性波速度データをそれぞれ75万気圧、70-95万気圧において取得した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体FeNi3S,液体Fe-S合金(10 wt%の硫黄含有)のX線回折測定、高分解能X線非弾性散乱測定を行い、密度データ弾性波速度データをそれぞれ75万気圧、70-95万気圧において取得することに成功した。80万気圧を超える高圧下において、減圧時ダイヤモンドはほぼ割れてしまう。平成28年度には、ダイヤモンドアンビルを2対購入し、80万気圧以上の高圧下における実験に関しては、非弾性散乱測定を重点的に行った。試料とアンビル間の反応を防ぐために導入している2枚のサファイアディスクを従来用いていたものより薄くする(15 μmから8 μm)ことで、試料の厚みを厚くし、シグナルのS/N比向上を実現した。今後より高圧における実験を行う場合、試料厚みは更に薄くなる。液体試料の拡散による試料穿孔の可能性が高まる。そのため、平成29年度はより露光時間が短く(おおよそ1/2)測定が可能であるSProng-8 BL43LXUにおける測定を予定している。研究成果の発表としては、高圧討論会(国内学会)ならびにAmerican Physical Society March meeting(国際学会)で成果を口頭発表し、液体(Fe,Ni)3Sの弾性波速度測定についての研究成果を国際誌(Journal of Geophysical Research)に投稿することが出来たため、おおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
地球外核に相当する高圧下における測定を行うことは、地震波速度観測データとの直接比較を行う上で必要不可欠である。現在投稿中の論文にも示したとおり、自身の実験誤差や圧力依存性を得るために用いる状態方程式の違いによって地球外核中程で弾性波速度の見積もりに7%以上もの不確かさを生じてしまう。これは純鉄と観測値の3%の弾性波速度差の原因(外核組成)の完全なる解明が、現状のデータでは難しいことを示す。そこで平成29年度液体鉄硫黄合金の密度測定、弾性波速度測定ともに100万気圧以上の高圧下における実施を目指す。しかし、前項にも記述したように80万気圧を超える高圧下において、減圧時ダイヤモンドはほぼ割れてしまう。平成29年度に購入可能なダイヤモンドアンビルは1-2対であるため、100万気圧以上の高圧測定については非弾性散乱測定を優先させ、よりインパクトの大きな国際誌への発表を目指す予定である。今後より高圧における実験を行う場合、試料厚みは更に薄くなる。液体試料の拡散による試料穿孔の可能性が高まる。そのため、平成29年度はより露光時間が短く(おおよそ1/2)X線非弾性散乱測定が可能であるSProng-8 BL43LXUにおける測定を予定しており、ビームライン担当者のバロン氏とも打ち合わせ済みである。液体鉄硫黄合金の密度測定についても、現在75万気圧までとはいえデータは順調に取得することができている。平成29年度にはなるべく高い圧力発生を目指すとともに、国際学会での発表、国際誌への投稿を予定している。弾性波速度・密度データを合わせることで、液体鉄硫黄合金の弾性挙動の深い理解を行うことができると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
液体鉄合金とダイヤモンドアンビル間の反応を防ぐため、サファイア単結晶ディスクを導入している。しかし購入に際し当時の在庫が限られており、当初予定していたより少ない枚数を購入したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度サファイア単結晶ディスク・並びに試薬の購入費として繰越す予定である。
|