本研究の目的は、熱帯および中高緯度海面水温変動が引き起こす遠隔強制効果に着目し、20世紀前半に起こった北極域温暖化の要因を解明することである。具体的な研究目的は、(1) 20世紀前半の北極域温暖化と物理的に整合する海面水温変動パターンおよび北半球大 気循環変動パターンを特定すること、(2) 数十年規模変動をより忠実に表現した海面水温データセットと大気大循環モデルを用いて20 世紀前半における北極域温暖化の再現すること、(3) 北極域温暖化に対する強制源を特定し、 熱帯および中高緯度海洋からの遠隔強 制効果の影響を評価することの3点である。平成29年度は、前年度に実施した大気大循環モデル実験のアンサンブル数を増やし、さらに北大西洋の昇温効果のみを強制とする実験を実施した。その結果、北極圏のユーラシア大陸側で強化される大気下層の西風は北大西洋の昇温が主要因であることが分かり、それが地表付近の暖気移流を強化することによって温暖化を引き起こしていることを突き止めた。さらに Coupled Model Intercomparison Project phase 5 (CMIP5) の計37個の大気海洋結合モデルによる長期コントロール実験を用いた解析を詳細に行った。その結果、太平洋および大西洋における数十年規模変動が同位相で温暖位相にシフトする際には北極圏が温暖化し、同位相で寒冷位相にシフトする際には北極圏が寒冷化することを見出した。これらの結果は北極圏の気候変動に太平洋と大西洋の内部変動が大きく寄与していることを示唆している。これらの研究成果を国際学会で発表し、米国科学アカデミー紀要 PNAS で論文発表を行った。これに伴いプレスリリースを行い、国内外に向けた情報発信に努めた。
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