研究課題/領域番号 |
16K17808
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木田 新一郎 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (50543229)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エスチュアリー循環 / 水循環 / ベンガル湾 |
研究実績の概要 |
海洋と河川の流れ場をIsopycnal Layer Modelを用いて一体的に解くことで、ベンガル湾に流出するガンジス・ブラマプトラ川の河口域の流れ場の再現、そして河川水が海盆内部へと拡散する力学過程の理解を進めている。ベンガル湾の海面は塩分濃度が極めて低い海域となっており、モンスーンによる降水とともに河川からの淡水流入がその形成要因として考えられている。しかし、ガンジス・ブラマプトラ川の河口域はメガデルタとなっており、河川と海洋の境界線が明確ではない。そのため、これまでの河川モデルと海洋モデルを結合するだけではこの河口域の流れ場を忠実に再現することは難しかった。 初年度はまず河口域に焦点をあてた高解像度領域モデル(約500m)を構築し、陸域から海域までの淡水の流れ場をIsopycnal Layer Modelで再現した。通常、海洋モデルで河川を表現する際に用いることの多い月気候値では解像できない急激な短期変動成分がこのモデルでは再現できていることが確認でき、本研究でこれから用いる数値モデルの基礎部分が構築できたと考える。今後、この数値モデルを用いることで大規模河川として本流成分がもたらす流量変動場に加え、モデル領域内の降雨がもたらす短期変動場と支流成分の役割を同一のモデル内で検証することが可能になった。また観測値が不足がちである支流の再現や河川の分岐・合流が数多く存在するデルタ域の再現が可能にもなった。モデル結果からは、河川水が海洋に近づき、河川幅が広くなるにつれて海水との間で地衡流調節が起きて大規模な河川プリュームの形成することが示唆された。また河川と河川間で相互作用が起きていることも示唆された。研究成果は日本地球惑星科学連合大会にて口頭発表するとともに、研究協力者らとモデル・観測結果との比較を通じて積極的に議論を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、河口域に焦点をあてた高解像度領域モデル(約500m)を構築し、その出力結果の検証を行った。実験期間は洪水イベントが多く発生した2004年に絞ることとした。まずは陸域の影響を検証するため、ベンガル湾は静かだと仮定し、領域外から流入する本流の流量値には全球河川モデルの日平均値を用いてその変動場を再現した。領域内の降水量に衛星データ(TRMM)の日平均値を用いて陸域での表面流出と支流を駆動した。出力結果は月気候値では解像できない急激な短期変動成分が再現できており、モデル領域内の降雨イベントがもたらす短期変動場と支流成分を同一のモデル内で検証することが可能であることが確認できた。これから本研究で用いることになる数値モデルの基礎を構築することが出来た。出力結果は河川水が海洋に近づき、河川幅が広くなるにつれて海水との間で地衡流調節が起きて大規模な河川プリュームの形成することも確認できた。河川水がベンガル湾へと直接流入せずに岸に沿ってトラップされるなか、河口付近では本流と支流間、支流と支流間で相互作用が起きていることも示唆された。今後、より詳細な力学過程の検証・解析を進める必要がある。 次年度の研究計画を実施するための準備も順調に進んでいる。外洋循環の影響を検証するために用いるベンガル湾を含む計算領域へと拡張した領域モデルの構築も開始した。風成循環に加え、領域外のインド洋赤道域から届くケルビン波等の影響を再現するには側面境界値に工夫が必要になることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、次年度は、高解像度領域モデルの出力結果を解析するとともに、河川水と海洋の相互作用の力学過程の理解を進め、外洋変動が河川水の流路に与える役割を検証する計画である。外洋変動として潮汐に加え風成循環やインド洋赤道域から伝搬するケルビン波に代表される季節スケールの影響を検証する予定である。河川フロントの水平方向な移動だけでなく、河川水と海水の鉛直混合に伴うエスチュアリー循環の視点も取り入れたい。 外洋変動の影響と同時に、複雑な河口地形が河川水の流路に与える役割の検証も進める。河川地形の感度実験は河川・海洋一体型モデルならではの実験と考え、高解像度の地形変化が作り出す支流の役割に注目したい。 次年度は研究協力者との議論に加え、国内外での学会・ワークショップにおいて成果発表も積極的に進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値モデルの出力結果を保存するためのハードディスクを購入する必要性があり 解析に用いるワークステーションを購入することを中止したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は数値モデルの出力データが更に増えることが予想され、大型のデータサーバーとハードディスクの購入を計画している。
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