研究課題/領域番号 |
16K17809
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
樫村 博基 神戸大学, 理学研究科, 特命助教 (80635186)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大気力学 / 地球流体力学 / QBO的振動 / 時間積分法 / Ruby |
研究実績の概要 |
平成29年度はまず、階層的数値モデル群構築の参考とするための予備実験として、既存の惑星大気の静力学スペクトルモデル「DCPAM」と非静力学正二十面体準一様格子モデル「SCALE-GM」の両モデルを用いて、大気大循環モデル力学コアの標準実験(Held & Suarez, 1994)及びこれを高高度に拡張した実験を実施した。標準実験の結果は両モデルでほぼ同じであったが、高高度拡張実験では赤道上空の東西平均東西風の振る舞いが異なっていた。DCPAMではほぼ一定の西風であったのに対して、SCALE-GMでは西風と東風が数年の周期で交互に入れ替わる振動現象が得られた。これは、地球成層圏で観測されている成層圏準2年周期振動(QBO)と類似した現象であり、非常に興味深い結果である。さらなる実験の結果、SCALE-GMでみられたQBO的振動の有無や周期は、時間積分法や時間刻み幅に依存することが分かった。特に、時間刻み幅を小さくした極限で数値解の収束がみられなかった。時間積分は数値モデルの要であるため、それに対する解の依存性を確認・掌握することは非常に重要となる。 そこで、階層的数値モデル群の構築に先立ち、種々の数値積分法を簡単に切り替えて数値実験を実施できる環境をスクリプト言語Rubyで整備した。対応した数値積分法は、前進差分、2~4次のルンゲクッタ、リープフロッグ、台形、3次のAdams-Bashforthの各種方法である。そして、これらの数値積分法および時間刻み幅に対する、1次元線形移流方程式の数値解の依存性を調べた。実験の結果、前進差分を除き、時間刻み幅が十分に小さければ、数値解は収束することが確認された。これは、上述のSCALE-GM(ルンゲクッタ法を採用)のQBO的振動の振る舞いとは異なっている。そのため、非静力学モデルを用いたさらなる調査が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
雇用環境の変化により、本研究に割けるエフォート率が削減されたため、研究計画よりも遅れている。さらに、非静力学モデルの解の収束性という問題が発見されたため、計画外の実験・調査を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に整備した空間微分計算を含むスペクトル変換モジュールと、平成29年度に整備した種々の時間積分法のモジュールを組み合わせて、Rubyによる階層的数値モデル群の構築を試行し、金星大気超回転に関する数値実験を実施する。 一方で、大気モデルにおける数値解の時間積分法・時間刻み幅依存性の問題は、計画当初予見されなかった問題であるが、これの掌握なしに、まっとうな数値実験は不可能とも言える重要な問題である。そのため、当初計画と並行して、この問題の掌握も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の遅れにより、学会発表・論文出版等の費用が支出されず、残額が生じた。本課題の事業期間を1年延長することで、研究計画を遂行し、繰り越し分を使用する。具体的には、数値実験の実施により必要となる大規模ストレージの購入に使用する。また学会発表や査読付き論文の投稿に要する費用に使用する。
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