研究実績の概要 |
金星大気スーパーローテーションのメカニズム解明を念頭に、階層的数値モデル群の構築を試みた。用いるプログラミング言語として、汎用スクリプト言語Rubyを選定した。Rubyは非常に柔軟な記述が可能であり、気象学分野ではデータ解析・可視化用に利用実績があり、また拡張性が高いことが選定の決め手となった。 一方、数値モデル群構築の予備実験として、既存の惑星大気静力学スペクトルモデル「DCPAM」と非静力学正二十面体準一様格子モデル「SCALE-GM」の両モデルを用いて、大気大循環モデル力学コアの標準実験(Held & Suarez, 1994)を高高度に拡張した実験を実施した。その結果、赤道上空高高度の東西平均東西風の振る舞いが、モデルの空間離散化手法や時間積分法・時間刻み幅に依存して大きく変わることが見いだされた。このように数値的手法が大規模場に顕著な影響を与えうることは、今まで問題として認識されていなかった。しかしこれは、大気運動の数値的研究の根幹に関わる重要な問題だと言える。 この問題に対峙するために、階層的数値モデル群構築の前段階として、様々な数値解法を簡単に切り替え結果を比較できる、地球流体問題の数値実験環境をRubyライブラリの形で構築した。テスト計算として、Williams et al. (1992) の球面浅水方程式系の標準実験を実施し、ライブラリが問題なく動作すること確認した。このライブラリは、本研究課題の成果物としてインターネット上で公開している。 本研究で構築したRubyライブラリにより、様々な系(モデル)を様々な数値解法で計算し比較することが容易になった。これにより、数値解法の影響を確認しつつ、系の近似の度合いによる数値解の違いを検証することができるようになり、数値的研究による金星大気スーパーローテーションのメカニズム解明に向けて前進した。
|