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2017 年度 実施状況報告書

2014年夏エルニーニョ予測「はずれ」の謎

研究課題

研究課題/領域番号 16K17810
研究機関国立研究開発法人海洋研究開発機構

研究代表者

土井 威志  国立研究開発法人海洋研究開発機構, アプリケーションラボ, 研究員 (80638768)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワードエルニーニョ / 季節予測
研究実績の概要

エルニーニョ現象とは、東太平洋赤道域に平年より異常に暖かい海水が数年に一度現れる現象であり、世界各地の天候異常を引き起こす要因となっている。科学的興味と社会的要請が相まり、エルーニョ現象はここ30年で活発に研究されてきた。最近では熱帯太平洋の観測網の展開とともに、各国の公的サービスとしてエルニーニョ現象の監視や現業予報が行われるようになった。そのような状況で、2014年春には気象庁や米国大気海洋局を含む現業官庁の多くが夏季に5年振りのエルニーニョ現象が発生する可能性が高いとの予報を発表した。しかし、実際には発生しなかった。この予測“はずれ”は、研究代表者が所属する国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下JAMSTEC)のエルニーニョ発生予測システム(SINTEX-F)でも同様だった。
2014年春から、予測通りに順調に発達してきたエルニーニョ現象が、なぜ夏に急激に衰退し、予測がはずれてしまったのかを調べた。観測データと共に、予測モデルのアンサンブル結果を予測成功メンバーと予測失敗メンバーに分けて比較したところ、この時期、エルニーニョ現象発生の引き金となる西風バーストとは逆の東風バーストが吹き、海洋内部の冷たい水を湧昇させる海洋波動(湧昇ケルビン波)が励起され、エルニーニョ現象の衰退を引き起こしていたことがわかった。海洋の湧昇ケルビン波の重要性が明らかになったので、その励起源で海洋亜表層の観測データを予測の初期値に取り込むためのスキームを開発した。この新しい季節予測システムをSINTEX-F2-3DVARシステムと呼ぶ。1983-2015年の各年の6月1日から、6ヶ月先までの過去再予測実験を実施したところ、従来のシステムに比べて、2014年後半のエルニーニョ現象について予測が改善していることを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

新たに開発したSINTEX-F2-3DVAR季節予測システムでは、2014年後半のエルニーニョ現象の衰退予測が改善していることを確認した。しかし、2014年7月の急激な衰退のみに注目すると、その予測には成功していない。しかし、予測のアンサンブルメンバーを増やすことで、確率論的な予測は可能となるかもしれないと考えた。それを詳しく調べるために、既存の12アンサンブルの予測メンバーを108アンサンブルにまで拡張し、1983-2015年で過去再予測実験を実施した。極端なエルニーニョ現象の発生予測は改善するものの、以前として、2014年7月の急激な衰退を捉える予測メンバーは無かった。
その本質的な問題は、エルニーニョ予測システムの多くが現在抱える問題の1つであるover-confident問題に起因すると考えている。これは予測システムにおいて、アンサンブル平均予測値のエラーと比べて、予測アンサンブルの広がり(スプレッド)が小さすぎる問題であり、予測システムの信頼度に深く関わる。
この問題を解決する第一歩として、まずは、西風バーストや東風バーストの発生頻度を予測モデルが過小評価している可能性を検証する。そのために、過去再予測実験の結果に加え、海表面水温の観測データをSINTEX-Fの大気モデルパートの境界条件とした大気応答実験を実施した。

今後の研究の推進方策

過去再予測実験の結果に加え、海表面水温の観測データをSINTEX-Fの大気モデルパートの境界条件とした大気応答実験の結果を解析し、熱帯太平洋の西風バーストや東風バーストの発生頻度を、モデルが過小評価している可能性を検証する。特に数ヶ月先から事前にその発生を予測するためには、それらの風の発生頻度が、海表面水温に依存する形で変動している可能性に着目する。海は大気よりも大きな熱容量をもち、ゆっくりと変動するので、海起源の変動であれば、数ヶ月先からの予測可能性を期待できるからである。先行研究から、熱帯太平洋西部の29度以上の非常に暖かい海の東端の東西位置の変動が影響していると考えられる。
西風バーストや東風バーストの発生頻度をモデルが過小評価していれば、その問題を解決する方法を試行する。おそらくカオティックな成分と、海表面水温に依存している成分とがあるであろう。特に、熱帯太平洋西部の海表面水温に依存してその発生頻度が変動している成分については、それをモデルに確率論的に取り込むスキーム開発が有効であると考えている。

次年度使用額が生じた理由

国際共同研究者の地域で、2018年6月に本研究に関連する国際学会が開催されることになったため、2017年に同共同研究者との打ち合わせのためのに予定していた渡航を取りやめた。想定よりも順調に研究が進んだため、実験に関する技術的な打ち合わせより、実験の結果を精査する科学的な打ち合わせを行うことを優先した結果であり、本研究の遂行には支障がなかった。未使用額は、国際学会の旅費として計上する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)

  • [国際共同研究] ハワイ大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ハワイ大学
  • [雑誌論文] Improved Prediction of the Indian Ocean Dipole Mode by Use of Subsurface Ocean Observations2017

    • 著者名/発表者名
      Doi, T., A. Storto, S.K. Behera, A. Navarra, and T. Yamagata
    • 雑誌名

      J. Climate

      巻: 30 ページ: 7953-7970

    • DOI

      https://doi.org/10.1175/JCLI-D-16-0915.1

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] One hundred parallel worlds in seasonal prediction2018

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Doi,Swadhin Behera, Toshio Yamagata
    • 学会等名
      Ocean Sciences Meeting 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] 海洋亜表層観測データを用いた初期値補正とインド洋ダイポールモード現象の予測精度向上について2017

    • 著者名/発表者名
      土井 威志, A. Storto, S. K. Behera, and 山形俊男
    • 学会等名
      JpGU-AGU Joint Meeting 2017
    • 国際学会
  • [学会発表] 海洋亜表層観測データを用いた初期値補正とインド洋ダイポールモード現象の予測精度向上について2017

    • 著者名/発表者名
      土井 威志, A. Storto, S. K. Behera, and 山形俊男
    • 学会等名
      日本気象学会2017年度春季大会
  • [学会発表] 100アンサンブルメンバーによる季節予測実験2017

    • 著者名/発表者名
      土井 威志,S. K. Behera, and 山形俊男
    • 学会等名
      2017年日本海洋学会秋季大会

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公開日: 2018-12-17  

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