エルニーニョ予測について改善すべき問題の1つが、自信過剰問題である。これは、アンサンブル平均による予測のエラーに対して、予測アンサンブルメンバーのバラツキが小さ過ぎる問題である。特に、この問題が顕著に現れたのが2014年のエルニーニョ予測であった。 2014年エルニーニョ予測が「ハズレ」たメカニズムについてはいくつかの説が提唱されているが、SINTEX-Fシステムによる過去再予測実験のアウトプットを解析した結果、6-7月に熱帯太平洋西部で複数回発生した非常に強い東風サージを予測できていなかったことが主な原因だと示唆された。それを確かめるために、再解析データの日平均東西風応力偏差を、SINTEX-F予測システムの熱帯太平洋西部のみに強制しながら予測計算を実施し、その影響を調べた。その結果、現実を良く予測できるようになった。従って、少なくともSINTEX-Fシステムにおいては、非常に強い東風サージの発生が、2014年エルニーニョ予測の成功の鍵であることを示した。では、非常に強い東風サージの発生を、数ヶ月前から予測することは可能であろうか?SINTEX-F結合モデルの大気パートに、観測された海表面水温SSTを強制した実験の結果を解析したところ、5-15日程度の季節内変動である東風サージの発生を、SST強制のみで予測することは難しいことが確認できた。つまり、少なくともSINTEX-Fモデルでは、東風サージの潜在的な季節予測可能性は低い。そこで、東風サージの発生を確率過程として考慮し、補助的に追加強制していた場合には、どのような影響を2014年エルニーニョ予測に与えていたかについて調べた。すなわち予測実験の時間積分中に、15日毎に30%の確率でランダムに典型的な東風サージを追加強制した。その結果、2014年のエルニーニョ予測の精度が向上することが分かった。
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