太陽面の爆発現象(フレア)で生成される高エネルギー粒子は地球の超高層大気や、人工衛星の運用に影響を与え 、近年その生成の理解や予報に対して社会的要請が高まっている。この高エネルギー粒子はGHz帯域に1ミリ秒未満の突発的な電波を放射し、その電波スペクトルの時間変動が粒子のエネルギーを反映する。本課題ではFPGAを用いた新型デジタル分光装置を開発し、これを用いて、いまだかつてない、超高時間・高周波数分解な太陽電波バーストの電波スペクトル観測を実施し、観測されたスペクトルデータの時間変動を解析することで、粒子の加速過程の解明を目指し研究を行った。 まずFPGAとAD変換器を組み合わせることで、入力信号をリアルタイムでデジタル化し高速フーリエ変換する「デジタル分光計」を開発し、その性能評価を行った。その結果、時間分解能、周波数分解能だけでなく、実効ダイナミックレンジ、高調波特性、安定性などにおいても従来型の一般的な周波数解析装置に比べ高い性能を持つ装置の開発に成功し、この結果をまとめて論文として出版した。本装置を情報通信研究機構の保有する太陽電波望遠鏡に搭載し、太陽電波の連続観測を行った。その結果、多数の太陽電波バーストのスペクトル微細構造を検出することに成功した。 電波の分光観測は粒子のエネルギーを導出できるが、粒子の生成領域や伝搬方向はわからない。そこで、分光観測と相補的なこれらの情報を得られる電波干渉計を用いた太陽電波観測実践を行った。用いた装置は米国国立電波天文台が保有する超大型電波干渉計JVLAおよび日本を含む国際チームが運用するALMAで、現地に実際に滞在して実験を行った。その結果、太陽黒点が放射する電波を広い周波数範囲で高い空間分解能で観測することに成功し、その結果を論文化した。今後は新型分光計の分光データと干渉計による位置情報を合わせた包括的な研究が期待される。
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