研究課題/領域番号 |
16K17817
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
山口 直文 茨城大学, 広域水圏環境科学教育研究センター, 助教 (80634120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 津波堆積物 / 水路実験 / 堆積物粒径 / 時系列堆積過程 |
研究実績の概要 |
津波堆積物の特徴の多様性や普遍性が,巨大津波後の詳細なフィールド調査によって明らかになる一方で,その特徴から形成時の水理条件などを解釈できる場合はいまだごく限られている.その一因は,津波堆積物と水理条件を結びつける詳細な時系列堆積過程が明らかになっていないためである.こうした津波堆積物の時系列堆積過程の解明に向けた足がかりとして,本研究では,水路実験で津波流に取り込まれた堆積物量の時系列を観察・解析することで,津波流の時間変化に対する堆積侵食現象の応答を明らかにすることを目的とする. 初年度である平成28年度は,以下の4項目について研究を実施した:(1) 研究目的に向けた実験水路の改善,(2) 予備実験による水理条件測定,(3) 堆積物粒径の影響の検証実験,(4)地形による強制的な水理条件変化の下での時系列堆積過程の検証. それぞれの項目では以下のような成果が得られた:(1) 実験水路の改善により,より長い陸上区間での堆積侵食現象をより安定した水理条件で観察し計測できるようになった;(2) プロペラ式流速計による流速測定と波高から水理条件特性が明らかになった;(3) 堆積物粒径によって浮遊砂の時系列特性が異なることが明らかになった;(4) 崖のような遡上津波を妨げる地形によって急激に水理条件が変化する場合の実験を行った結果,津波堆積物の空間分布と時系列堆積過程の密接な関係が明らかになった.この(4)の結果は,津波堆積物の空間分布の解釈において,時系列堆積過程の正確な理解が不可欠であることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において予定していた項目については全て順調に進めることができた.具体的な進歩状況を以下に示す(番号は「研究実績の概要」と対応). (1) 堆積現象の空間的な把握と底面粗度の正確な設定のため,アクリル製の長さ4 mの陸上模型に変更し,模型の表面に粒径0.2 mmの珪砂を貼り付けた.また,水路上部にスリットを設置し,水路中央に上方からシート状に照明を当てることで,水路中央断面のみの現象を撮影可能となった.(2) プロペラ式流速計を新規導入し,既存波高計とともに計測を行った結果,遡上する津波を模した段波は,浸水深が最大となる前の,段波最前面において最大流速となっていることが明らかになった.(3) 0.1 mmと0.2 mmの硅砂を用いた実験を行って比較したところ,細粒な0.1 mmの場合には浮遊砂量が長時間かつ長区間維持される様子が観察された.また,細粒な堆積物の場合には本研究で用いている画像解析による浮遊砂解析が適さない場合があることが明らかになった.(4) 崖のように遡上した津波を妨げる地形がある場合,後続の津波流によって運ばれる浮遊砂が急激に失速し堆積することが,時系列解析および残された堆積物の分布から明らかになった. (4)の成果については,日本堆積学会2017年信州大会において発表を行い,現在学術論文として投稿中である.査読が長期化しているため年度内の掲載までは達しなかったが,研究初年度に計画していた内容については十分に成果が得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
堆積物供給源の影響について調べる実験に移る.特に,先行研究および本研究から示唆されている,陸上区間に移動可能な堆積物がある場合に,どのように取り込まれ,津波流内の浮遊砂量がどのように時系列変化するかについて実験を行う.上述の(3)で明らかになった画像解析手法の限界については,使用する堆積物粒径の検討や濁度計を用いた計測への切り替え,撮影設定の調整などによって対応できる問題であり,研究計画を進める上では大きな支障にはならないと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の研究成果についての論文が学術誌に掲載されることを見越して計上していた予算が,査読の遅れにより年度内の掲載には至らなかったことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
成果についての論文が学術誌へ掲載される際の経費として使用する.
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