平成30年度は前年度に得られた四国中央部三波川帯白髪山地域の温度構造をまとめて、論文に投稿するため、データの整理を行った。既に前年度にスラブ-マントル境界において優位な温度上昇は検出されず、剪断応力は数十MPa以下である、という結論が得られていたため、本年度は別の角度からのデータの検証を行った。白髪山地域で採取された126個の泥質片岩に対して炭質物ラマン温度計を適用し得られた変成温度を精査したところ、380℃から440℃の温度ギャップが確認された。この温度領域は、熱モデル計算と比較すると、三波川変成帯の沈み込み時のスラブがモホ面を接する領域に相当することが明らかになった。380℃以下のモホ面より上部に相当する低温領域は変形が少ないのに対して、モホ面より下部の高温領域は変形が発達しており、モホ面を境界とする物質の変形機構が異なることも示された。この領域はちょうど深部スロー地震が発生している領域であり、今回の結果はスロー地震の発生機構を理解する上で天然の試料からの貴重なデータであるといえる。 また、昨年度に引き続き、マントル側の情報を増やすために、分光法を用いた蛇紋岩の分析も行った。ATR法という通常の薄片でも分析が可能な新しい赤外分光法の分析手法を用いて、蛇紋石の同定が簡便に行えることを示した。また、蛇紋石のラマンスペクトルを詳細に検証したところ、白髪山地域において累進変成時の情報を残す粒子と、ピーク温度後の後退変成時に形成された粒子を区別できる可能性が示された。これらの情報は、従来ほとんど情報が引き出せなかったマントル側の超塩基性岩からも変成時の温度圧力条件を引き出せる可能性があることを示唆している。 また、他の変成帯とも比較するため、台湾の国立東華大学のChin-Ho Tsai教授と共同研究を行い、Yuli帯においても同様の手法が適用できるか検証した。
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