2018年度までに実施してきた伊豆衝突帯地殻岩石の溶融実験により、マグマソースに混入する成熟地殻岩石の割合が増加することでマグマ組成が不適合元素に富むことが明らかになっていた。また、伊豆衝突帯花崗岩体についての地質圧力計の適応により、マグマ定置深度についての予察的な結果が得られていた。このため、2019年度は、(1)溶融実験による本州弧地殻岩石の混入量および部分溶融度によるマグマ組成変化の定量的解析と、(2)地質圧力計の適応による甲斐駒ヶ岳花崗岩質岩体の定置深度と冷却史の解析、を実施した。 これらの研究成果は、日本地質学会第126年大会、第9回ハットンシンポジウム国際花崗岩会議、米国地球物理学連合2019年秋季大会(「衝突帯における火成作用」セッションでの招待講演)にて公表した。 今回の研究成果で、大陸地殻を特徴づける不適合元素に富む花崗岩質マグマは、島弧衝突帯ではマグマソースに未成熟地殻岩石に成熟島弧地殻岩石が混入することで形成しうることが溶融実験から実証された。これは衝突帯における大陸地殻成長過程の理解に重要な知見であり、現在学術誌に投稿準備中である。また、甲斐駒ヶ岳花崗岩質岩体の定置深度(9~8 km)と冷却史(66~156 ℃/m.y.)が見積もられ、その結果から伊豆弧ー本州弧衝突初期にこの岩体には急激な上昇が認められないことが明らかとなった。このことは、当地域の構造発達史の理解に重要な知見であり、研究成果が学術論文に受理され現在印刷中である。
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