研究課題/領域番号 |
16K17823
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
遠藤 俊祐 島根大学, 総合理工学研究科, 特任講師 (60738326)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 付加体 / 玄武岩 / 低温変成作用 / ローソン石 / 沈み込み帯 / 秩父帯 / アルカリ輝石 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は高知県北部の秩父累帯北帯(ジュラ紀~前期白亜紀付加体)の地質構造を明らかにし,層序位置と変成温度‐圧力条件の関係づけを行うこと,またその結果をもとに各層準に含まれる緑色岩(続成~変成作用を受けた玄武岩)に含まれる変成鉱物組合せ・固溶体組成と温度‐圧力の関係を調べることで,低温変成鉱物の熱力学的性質を吟味し,沈み込み境界の地震発生帯に相当する低温領域での変成相図を熱力学計算により作成することである. 本年度の研究では,二つの主要な成果が得られた.ひとつは,重要な低温変成鉱物のひとつであるアルカリ輝石(ひすい輝石,エジリン,透輝石の固溶体)の熱力学的性質に関するものである.既存のモデルではエジリン‐透輝石間の非理想性の過剰見積もりにより低温での不混和領域が広くなりすぎること,温度圧力一定で石英+アルバイトと共存するアルカリ輝石固溶体は,エジリン成分に富むほどひすい輝石固溶量が高くなること,が明らかになった.ひすい輝石圧力計は緑色岩に適用可能な数少ない地質圧力計のひとつであるが,上述の点を考慮すれば300℃以下の低温変成域の圧力推定が可能であることを示した.もうひとつは,海洋地殻の水輸送の最も重要な担い手であるローソン石の形成反応に関するものである.まずゼオライトを含む鉱物脈が緑色岩中に開放系の加水反応(交代作用)により形成され,それが沈み込むことで鉱物脈が選択的に反応し,ローソン石が脱水反応により形成されることが明らかになった.この脱水反応は固相のみならず流体相を含めても,体積減少反応である.こうした反応がプレート境界の変形にどう関連しているかは,今後明らかにするべき課題として挙げられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は産総研から島根大学へ異動したことに伴い,本課題の計画時とは研究環境が変化した.しかしながら,秩父帯の層序位置と変成温度‐圧力条件の関係づけと,また重要な変成鉱物のひとつであるアルカリ輝石の低温での相関係の検討を予定通り行うことができた.これらの成果はJournal of Metamorphic Geologyに論文を投稿した.従って,概ね計画通りの進捗状況である.
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今後の研究の推進方策 |
付加体緑色岩の反応進行度は低く,玄武岩組成の等化学的な相図をもちいて地震発生帯における海洋地殻の吸水/脱水挙動を議論することは現実的ではないことが明確になった.引き続き,低温変成鉱物の化学分析や熱力学的性質の吟味を進めるとともに,低温での続成~変成作用がどのように進行しているのかという実態(特に流体移動,反応と構造形成がどう関連しているか)を野外観察で明らかにする必要がある.最終年度ではあるが,調査地域を広げ,より低温変成領域の緑色岩の野外調査を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿料に使う予定であったが,投稿予定の論文の執筆が遅れたため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は論文投稿料に充てる.
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