研究課題/領域番号 |
16K17827
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
椎野 勇太 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60635134)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 形態 / 進化 / 適応 / 古生態 / 古生物 / 流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究は,古生代初期に多様化した腕足動物オルティス類の殻形態から復元される生体・生態に基づいて,多様度の増加へと至った原動力を理解することを目的としている.特に本年度は,殻のまわりに生じる水流を利用した受動的な濾過摂食様式の復元を目的とし,定量的な評価を可能とする粒子イメージ流速計測法を導入した実験系の確立および形態機能性の予察実験を行った. 循環式流水装置にシートレーザー光を装着し,任意の断面における粒子の挙動から流速を定量化することに成功した.この実験装置に,オルティス類Vinlandostrophia ponderosaの化石標本から製作した模型を設置し,殻まわりの可視化実験を行った.その結果,本種の殻形態は,受動的に渦様回転流を形成できる機能を持っていたことが明らかになった.この渦様旋回流は,背殻と腹殻のどちらが上流であっても形成されており,本種の受動的濾過水流であった可能性がある.形態測定学的にみた本種の殻形態は,殻内側の左右に螺旋状の触手冠を収める空間構造を持っている.つまり本種は,螺旋状の触手冠を使って渦様回転流から効果的にエサを濾過摂食できる適応形態であったと考えられる.この形態機能は,殻の正中線上にある湾曲部(サルカスとフォールド)を備えたスピリファー類と同様であり,まったく異なる分類群の相似的な殻形態がもたらした機能的収斂現象だと結論付けた. オルティス類には,現生種で認められるような触手冠を支える腕骨が残されていない.そのため,これまで触手冠の形態は不明のままであり,濾過摂食戦略についても未解決の課題として残されていた.本研究によって明らかとなった機能形態学的な収斂進化の証拠によって,オルティス類の備えた生体情報に新たな知見を提示することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に第一の目標としていた実験系の確立については,速度調整,水槽内流量の計測,殻まわりの流速評価,流体構造の2次元解析の手順を構築し,すでに査読付き論文として受理されている.一方,化石標本から製作した模型実験では,形態を複数段階に調整した模型実験は現在進行中である.以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
異なる種の殻形態を改変させた模型を用いて,初年度に実施した水槽実験を継続する.さらに,人為的に改変した殻模型を用いた実験を行い,各形質がどのような機能性を備えていたのか明らかにする.流水実験に加え,流水実験で用いた実験モデルから表面形状データを抽出した解析モデルを作成し,数値流体解析によって殻まわりの流れ場を比較検討する.プラチストロフィア類の形態が備えた受動的な濾過水流の形成メカニズムを明らかにし,3種に見られる形態的な差異がどのような適応能力の違いを生み出していたのか議論する.
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