非火山性温泉の化学的・同位体的特徴の地理的特性を調べる野外調査では、中央構造線沿いに新たに10箇所の温泉施設と大衆浴場で採水を行った。分析項目は、主要溶存成分、リチウム‐ホウ素‐塩素ダイアグラムによる分類、同位体組成、および希土類元素パターンとし、総合的な解析に努めた。昨年度実施した調査地点と合わせて、計17地点となり、紀伊半島から四国の一部を含む広範囲について網羅的に調査することができた。このうち、プレートの脱水に関連した深部流体の可能性が高いのは、同位体組成と希土類元素パターンで異常が認められた4地点となり、これらの主要溶存成分パターンは、海水型~火山型に対応することがわかった。一般に、有馬―宝塚温泉の同位体パターンは、天水と深部50~60キロメートルからの脱水流体の混合曲線によって説明されているが、今回調査した和歌山県きのくに温泉の酸素・水素同位体比は、海水と深部30キロメートル前後の比較的浅いスラブ脱水流体の混合で説明できることが明らかになった。 一方、日周期の鉄沈殿メカニズムの解明を目指した研究では、入之波温泉を対象に、光分解で発生する過酸化水素と鉄の状態変化のその場測定を昨年度から引き続き実施した。昨年度は、過酸化水素の定量時に、錯塩が生じて比色分析が困難になる場面があったため、pH緩衝液をリン酸ベースからグッドバッファーに変更して分析を実施した。この結果、沈殿を完全に抑制して比色分析が可能になった。野外調査では、2018年度は天候に恵まれず、十分な過酸化水素の検出が認められなかった。そのため、溶存鉄の状態変化は、一時的に酸素分圧に支配される結果となった。
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