研究課題
異なる島弧に由来するかんらん岩で観察される性質(物質学的・地球化学的性質)の共通点・相違点を系統的に検討し,それらを特徴づける要因となった物理学的条件や諸現象の理解を目的として研究を進めている。特に,沈み込むスラブ由来の流体やそれによって促進されたかんらん岩の部分融解メルトによる改変過程などに注目して解析をおこなった。平成28年度は,フィリピン,ルソンー台湾弧の火山フロントに位置するイラヤ火山に産する高程度の変形を被ったかんらん岩捕獲岩と,極域ウラル地域に産する変成作用を被ったと考えられているライイズかんらん岩体中の斜方輝岩を中心に解析をすすめた。イラヤ火山のかんらん岩捕獲岩は,モーダルな交代作用を被っていない様に見える試料でも,多量な流体(+珪酸塩ガラス)包有物が観察され,複数回にわたってシリカに富み,二酸化炭素を含む水流体および珪酸塩メルトによる交代作用を被っていることが確認された。ライイズ岩体の斜方輝岩は,かんらん岩体全体が変成作用を受ける際の,二酸化炭素を多量に含む水流体との反応によって形成された可能性が示唆された。また,北海道中軸部に存在する,非常に高程度の変形を被っているウエンザルかんらん岩体についての解析を開始した。夏季に現地調査をおこなうことができなかったので,金沢大学の荒井章司特任教授に提供いただいた試料をもちいて岩石薄片を作成し,全岩での主要元素および微量元素組成分析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
これまで解析をすすめてきていたカムチャツカ弧のかんらん岩捕獲岩に加えて,前述したイラヤ火山のかんらん岩捕獲岩や,ライイズかんらん岩体の斜方輝岩,ウエンザルかんらん岩体のデータが少しではあるが揃いつつある。アバチャ火山直下のマントルについての情報はほぼ揃っているので,新たに得られたデータを合わせて解析を進めることができている。
ライイズ岩体の試料に関する基本的な岩石学的記載は進めているが,詳細な化学組成(特に微量元素組成)についての検討や流体包有物についての検討をおこなえていないので,それらの機器分析を開始する。また,平成28年度に解析を開始した高程度の変形を被っているウエンザルかんらん岩体について,変形度合いと化学組成との関係について詳細な検討をすすめる。
夏季の調査が実施できなかったため,次年度使用額が生じた。
平成29年度も現地調査は実施できない見込みであるため,現地調査は必要に応じて平成30年度に実施する。それまでは,研究協力者に試料の提供を依頼し,それを処理・観察し,機器分析などを進める予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 457 ページ: 106-116
10.1016/j.epsl.2016.10.012