島弧下マントル由来のかんらん岩には,共通して観察される特徴(含水鉱物の存在や高い部分溶融程度の溶け残り岩としての性質など)と,これまで限られた地域でしから観察されていない特徴(高変形や遷移元素の濃集・除去作用など)が認識されている.本研究では,それら普遍的に観察される性質と局所的にのみ観察されるものを,かんらん岩が由来するテクトニックセッティングや試料が記録している物理条件などと併せて検討し,島弧マントルの全体像を捉えることを目的に研究をおこなった. 研究にはかんらん岩捕獲岩と大規模構造運動で地表に衝上(もしくは地殻に貫入)したかんらん岩体をもちい,特に細粒化を受けている試料(カムチャツカ弧アバチャ火山産試料,ルソンー台湾弧イラヤ火山産試料,イタリアフィネロ岩体試料,北海道ウェンザル岩体)に注目して研究期間全体を通して解析をおこなった.いずれも細粒部で二次的に形成されたと考えられる含水鉱物や直方輝石が多く存在し,細粒部で高い軽希土類元素濃度となっていることからも,細粒化と同時の交代作用もしくは,細粒部で選択的に交代作用が起きている可能性がある. 2021年度は昨年度に引き続き北極圏ウラル地域のライイズ岩体の変成かんらん岩について解析を進め,かんらん岩の変成に関与した流体について検討をおこなった.その成果については現在投稿論文を準備中である. これ以外の成果としては,フィリピン中部のオフィオライトの超苦鉄質岩類についての記載をおこない,若い島弧と大陸の衝突によって生じた島弧的環境でのマントルーメルト相互反応について議論した(Payot et al. 2021_Journal of Asian Earth Sciences).
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