研究課題/領域番号 |
16K17835
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉田 健太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, ポストドクトラル研究員 (80759910)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / 変成岩 / 流体包有物 / ラマン分光 / 地質温度圧力計 / 深部流体 |
研究実績の概要 |
2016年度は流体包有物の密度による温度圧力計を較正する為に,モデルの精密化と,天然に産する流体包有物の記載手法の改良を行った. 流体包有物の密度と岩石の温度圧力史を関連づけたモデルを構築するにあたり,本年度はザクロ石の化学組成変化から温度圧力史を復元する手法の開発と習熟に取り組んだ.天然試料に適用するに当たっての必要なデータの取得も行ったので,今後はこれらの適用と成果公表を行う予定である. 一方で,天然に産する流体包有物の記載についても研究を進行させている.本年度は夏にキルギスタンの野外調査を行い,冷たい沈み込み帯で形成された超高圧変成岩試料を採取した.採取した試料中に記載研究に適した流体包有物を発見したため,この試料の記載を進める上で必要となった流体包有物記載手法の改良を実施した.従来の組織観察・融点測定・常温ラマン等の分析手法に加えて,本年度は流体包有物を凍結させた状態での分析(ラマン分光など)にスポットを当てた.結果,常温下の観察・分析では不十分だったデータを補う記載を行うことが出来たため,2017年度の学会発表を予定しているとともに,現在論文を投稿準備中である. また,天然試料の記載の一環として和歌山県・毛原層群に産する変成岩の変成温度見積もりを行った.本地域は従来の研究手法では温度見積もりに困難が伴う変成条件が予想されており,近年発達してきたラマン分光による温度解析手法を適用し,変成温度の地域的な差異を精密に解析した.本成果は論文として公表・印刷済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では流体包有物の密度保存過程のモデル化を本年度の当初目標としていたが,モデル化に当たって克服すべき課題が数点見えてきたところで,課題克服に向けて数理的アプローチを模索している最中である.数理アプローチの模索の最中に,副産物として地下深部流体の化学組成の多変量解析・変成岩の全岩化学組成の多変量解析についてまとまった成果を得ることが出来たため,これらの内容は学会発表を行うとともに,現在論文投稿準備中である. 一方で,天然試料の記載研究は,現地側共同研究者の都合がついたためキルギスタンの野外調査を実施することが出来た.従来保有していた研究試料に加えて複数の研究試料を採取することが出来,地理的にもこれまでの研究地域を相補する形での調査を行うことが出来た.採取した試料からは今後の研究目的に適う流体包有物を見いだすことが出来たため,現在記載手法の改良とともに記載岩石学的な研究を進行中である. それらに加えて,和歌山県・毛原層群に産する変成岩の変成温度見積もりを実施し,当該研究地域が従来考えられていた説のうち,三波川変成帯の南方延長ではなく,隣接する御荷鉾帯の東方延長である考えを支持する結果を得,論文として成果公表に至った. 以上の成果より,当初目標として初年度と次年度以降の予定の多少の前後はあるものの,本研究の今年度の進捗状況は概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度の研究計画は,現在課題克服に向けてアプローチを模索している「流体包有物の密度保存過程のモデル化」を具体的に進行させる.これについては,現在申請者が取り組んでいる「データ駆動科学」の分野で盛んに行われているフォワードモデリングの実用例が参考になると考えている.世界の高圧・超高圧変成岩に想定される温度圧力条件からの減温減圧過程を考え,流体包有物の化学組成による温度圧力と密度の応答関係をモデル化することで,圧力計の較正を行う. また,天然試料の記載手法の改良は,現在申請者が所属している海洋研究開発機構の所持する装置が微小流体包有物の定量分析手法確立に最適であるとの知見を得たため,装置を利用した新分析手法の開発に着手,可能であれば年度内に手法の確立と論文投稿を実施したいと考えている. 本年度は大がかりな野外調査を実施する予定はなく,天然試料の追加分析はこれまでの採取試料の追加分析にとどまる予定である. まとまった成果が得られ次第,適宜論文としてまとめ,投稿していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度は海外渡航として,海外調査(キルギス,8月)1回とドイツで行われたシンポジウムへの参加(9月)があったが,これらの旅費が他財源での支出となった.更に,2016年度に異動・着任した所属機関にて個人使用顕微鏡を貸与されたため,本来計上していた顕微鏡購入費の支出がなくなった.これらにより,想定されていた支出がなくなったことが主な原因である.
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は関連研究分野の国際学会(国際エクロジャイト会議)がスウェーデンで実施されるが,次年度使用額はここに投入される予定である.
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