研究課題
昨年度から引き続き,流体包有物の化学組成をより正確に推定するために,集束イオンビーム(focused ion beam: FIB)を活用した分析手法の開発・改良を行った.Yoshida et al. (2018 Geochemical Journal) で指摘した通り,天然に産する流体包有物の化学組成は従来手法(融点測定・ラマン分光)では決定しきれない場合があり,クライオFIBを用いての凍結分析はそれを解決するための手法として強力な潜在能力を秘めている.この論文は,2019年のGeochemical Journal論文賞を受賞した.Yoshida et al. (2018) で公表した結果では,包有物の凍結分析に当たって装置内部の幾何学的な問題が発生していたが,本年度それを解決すべく,試料の分析前準備に顕微掘削サンプリング法を導入した.FIBによる顕微掘削サンプリングは透過電子顕微鏡観察などと組み合わせて広く使われている手法であるが,本研究ではこの手法をクライオFIBの前準備に活用した.新しく開発した手法を適用した結果として,分析の際の幾何学的な問題は解消され,エネルギー分散型のX線化学組成分析における妨害元素の影響はほぼ無くなったと言える.一方で,X線散乱のモンテカルロシミュレーションを行った結果,微小すぎる包有物の分析には,固相分析と同様に分析エネルギーを下げる等の工夫が必要であることも示唆された.これらの成果は東北大学で開催された国際シンポジウムWater Dynamics 16や,日本鉱物科学会の年会で公表し,会議参加者と議論を行った.
3: やや遅れている
本年度,流体包有物の分析に用いる集束イオンビーム(FIB)の故障が相次ぎ,分析のための十分な時間が取れなかったため,研究期間の延長申請を行った.限られた時間の中での実験・分析ではあったが,クライオFIB分析に対して顕微掘削サンプリングを組み合わせる手法に関しては,現段階までで確立した手法論で概ね問題ないと言える.本研究で確立した手法は,微小包有物の化学組成を可能な限り定量的に分析する手法として,また記載岩石学と密に連携可能な「顕微」分析手法であるため,従来分析が困難であった変成岩中の流体包有物に対して強力なツールとなり得る.それらを踏まえて現在論文投稿の準備中である.
クライオFIBと顕微掘削サンプリングを組み合わせた分析手法に関する論文の投稿準備,および実際に確立した手法を天然試料に適用する研究を実施する.昨年度までにスロヴェニアのポホリエ山地,キルギスタンのマクバル岩体などで変成岩試料の採取を行っており,これらの記載岩石学的な研究を進めているところである.本研究で確立した手法を,天然の流体包有物に適用していき,100km以深から深部岩石が上昇してくる際の流体活動について,どのような化学組成の流体が関与しているかを記載する.
本年度は研究に利用する装置 集束イオンビームが複数回故障し,計画通り実験・分析を行うことが出来なかった.その為,一部の追実験および論文投稿を次年度に繰り越すこととした.次年度使用額は実験のための消耗品,および論文投稿に関する費用(投稿料・英文校正費)に使用する予定である.
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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