研究課題/領域番号 |
16K17838
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
藤谷 渉 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 助教 (20755615)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 始原的隕石 / 炭酸塩鉱物 / 炭素同位体比 / 酸素同位体比 / 水質変成作用 |
研究実績の概要 |
2018年度はYamato 791198というCMコンドライトについて分析を行った。 まずYamato 791198隕石中の炭酸塩鉱物を走査型電子顕微鏡により探索した。その結果、粒子サイズが数十マイクロメートルと大きく、包有物も少ない方解石の結晶を発見することができた。 次にこの方解石粒子のカソードルミネッセンス像とマグネシウム・マンガン・鉄のX線元素マップを電界放出型の電子プローブマイクロアナライザを用いて取得した。その結果、カソードルミネッセンスの信号強度および微量元素の存在量は粒子内で不均質であり、かつそれらは粒子の結晶成長を反映したものであることが明らかになった。 さらに、方解石粒子のカソードルミネッセンス像および元素マップの画像をもとに、粒子の結晶成長に沿って酸素および炭素同位体比を二次イオン質量分析計を用いて測定した。その結果、酸素同位体比は粒子の結晶が成長するにつれて16Oに富む(17O/16O, 18O/16O比が小さくなる)ことが明らかになった。このことは、方解石の粒子が成長する過程で水と岩石が相互作用し、水の組成が変化していったことを示唆している。方解石の酸素同位体比が粒子の結晶成長とともに変化していくのに対し、炭素の同位体比は粒子内でほとんど均質であった。このことから、粒子の成長する間に水中の溶存炭素(炭酸イオン)の炭素同位体比はほとんど変化しなかったということがわかった。したがって、先行研究で報告された炭酸塩鉱物の炭素同位体比のバリエーションはその粒子が形成した環境に存在していた炭素リザーバの同位体比の不均一性を反映しており、粒子が成長する間に起った同位体分別を反映しているわけではない、と結論づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたCMコンドライトの分析は終了した。具体的には、ほぼ当初の研究計画の通り、炭酸塩鉱物粒子の結晶成長を観察し、その成長方向に沿った同位体分析を行うことに成功した。しかしながら、炭素の同位体分析は隕石に含まれる有機物などの汚染を受けやすく、すべての測定において質のよいデータを取ることができなかった。また、得られたデータを解釈し、論文にまとめる段階にはまだ至っていない。当初予定していた研究期間において、他の研究者による炭酸塩鉱物の同位体分析に関する論文がいくつか発表されており、それらの結果も組み込んだ解釈を試みる必要が出てきた。したがって、研究期間を延長する必要があり、論文の執筆段階においてデータ不足が明らかになれば、追加でデータを取得することも検討している。
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今後の研究の推進方策 |
隕石の分析はほぼ終了したので、今後は共同研究者と分析結果の解釈について議論し、論文執筆を行う。論文を執筆する段階でデータの不足が明らかになれば、追加で実験を行う。分析結果の解釈としては、隕石中の炭酸塩鉱物に見られる炭素同位体比のバリエーションについて定量的に説明できるモデルを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画はおおむね実行され、隕石中の炭酸塩鉱物の岩石学的観察および同位体分析データの取得は終了した。 現在その分析データの解釈を試み、論文にまとめて雑誌に投稿することを計画しているが、その過程で追加実験を行わなければならない可能性があるため、研究期間を延長するとともに、必要となる経費を繰り越した。したがって、当該経費は2019年度における試料の購入代、分析消耗品費、旅費、装置の使用料などに充てる。
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