今年度は、前年度までに得られたデータを解釈し、論文にまとめる作業を行った。 まず、前年度中に投稿したTagish Lake隕石中の炭酸塩鉱物に関する論文を、査読者のコメントにしたがって改訂した。Tagish Lake隕石中の炭酸塩鉱物は炭素-13に富む同位体比を示すことが前年度までに得られたデータから明らかになっている。本論文では、炭素-13に富む炭酸塩鉱物の起源は隕石母天体に含まれていた固体二酸化炭素である、という仮説を導いた。論文の改訂作業中、他の炭素質コンドライト隕石のデータも加え、Tagish Lake隕石は固体二酸化を多く含む特異な隕石であり、他の炭素質コンドライト隕石と比較してより低温(80ケルビン程度)の環境下で形成したことを議論した。このことは、本隕石の母天体の形成は現在の小惑星帯ではなく、より太陽から遠い太陽系外縁領域だった可能性を示唆する。改訂作業ののち、本論文は無事に受理された。 また、今年度はY-791198隕石中の炭酸塩鉱物に関する論文もまとめた。前年度まででY-791198隕石中の炭酸塩鉱物に対する酸素、・炭素同位体比の測定は完了していた。酸素同位体比は炭酸塩の粒子内で大きく変動する一方で、炭素同位体比はほとんど一定であった。このような同位体的特徴を説明するため、炭酸塩の粒子が水の中で析出していく過程で、水の酸素同位体比が水-岩石相互作用(水質変成)によって変化していくというモデルを構築し、論文を投稿した。査読者からのコメントにしたがって、ラマン分光分析による炭酸塩鉱物の相同定という追加実験を行い、論文は問題なく受理された。
|