窒素は大気の主要組成であり、地球表層での循環メカニズムはよく知られている。一方で、マントルやコアなどの地球内部にも一定量の窒素が存在すると考えられており、その存在量や存在状態が精力的に調べられてきた。さらに、沈み込むスラブを通じて窒素が地球表層から深部へと供給されている可能性が示されているが、全地球規模での窒素循環は明らかでない。そこで、本研究では、地球表層の海洋底での重要な窒素リザ―バーである堆積物有機物に着目した。沈み込むスラブでの窒素を含む有機物の化学反応を明らかにするため、沈み込むスラブの温度圧力条件を模擬した高温高圧実験を行った。深さ約20-50kmに相当する圧力の0.5 GPaから1.5 GPa程度、温度350℃程度までの実験が可能な外熱式ピストンシリンダーを製作し、実験を行った。有機物堆積物のモデル物質として複数の構造異性体を持つ芳香族化合物を対象として、窒素の結合状態の違いによる高分子化メカニズムと窒素の挙動の変化を化学組成分析、GC/MSやMALDI-TOF/MSといった質量分析装置、赤外分光分析を用いた評価を進めた。溶媒に不溶な高分子生成物が得られた場合はさらに、固体NMRにより分析を進めた。構造異性体間の化学反応の温度圧力条件やメカニズムを比較した結果、窒素が芳香環内に独立して存在する場合は、深さ50 km程度の温度圧力条件でN/C比がほとんど変化しないまま高分子化することを明らかにした。芳香族化合物が地球深部への窒素のリザ―バーとなりうることを示唆している。本研究の成果の一部はすでに国際学術誌に掲載されている。現在、さらに成果をまとめ、国際学術誌への投稿を準備している。
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