国際宇宙ステーション上での微生物の宇宙空間移動可能性の検証

2016 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 16K17840
• 研究機関: 東京薬科大学
• 研究代表者: 河口 優子 東京薬科大学, 生命科学部, 嘱託助教 (00733990)
• 研究期間 (年度): 2016-04-01 – 2019-03-31
• キーワード: パンスペルミア説 / 宇宙実験 / 国際宇宙ステーション / 微生物 / 宇宙生存 / アストロバイオロジー

研究実績の概要

宇宙実験「たんぽぽ」計画は、宇宙に生命が移動するとされるパンスペルミア説を国際宇宙ステーション（ISS）で検証している。ISSにて地球由来微生物の捕集実験と、微生物の曝露実験を行っている。微生物の捕集実験では超高速度で周回している粒子を捕集媒体であるシリカエアロゲルで捕集する。その衝突痕内に含まれる微粒子を解析し地球由来物質であるかを判断する。微生物の曝露実験では、地球で準備した放射線耐性菌デイノコッカス属細菌を宇宙空間に曝し、長期生存できるかを調べる。パンスペルミア説において、宇宙を移動中に微生物が長期生存できるかどうかを調べるために行う。平成27年5月から船外に捕集媒体もしくは曝露サンプルを設置した。平成28年度は、1年間、ISSに曝したサンプルが地上に帰還し解析を行った。
捕集実験では、捕集媒体であるシリカエアロゲルに衝突した粒子の探索を行った。その結果、約50個の衝突跡を発見した。この中には、地球由来の粒子だけでなく、宇宙由来の宇宙塵が含まれていることが想定される。現在、エアロゲルから衝突痕のみを摘出し、微生物が存在するかを蛍光顕微鏡観察で調べている。
曝露実験では1年間宇宙に曝したDeinococcus属細菌の生存を調べた。その結果、100μmの厚みに調整した菌体の凝集体は紫外線の影響で死滅するが、500μm以上の大きさがあれば生存できることを明らかにした。宇宙で生存できる微生物の凝集体の最小サイズを決定した実験は世界初結果である。また、宇宙で生じるDNA損傷を調べたところ、紫外線で生じるピリミジンダイマーや、DNAの二本鎖損傷が生じていた。このDNA損傷が宇宙での生存に最も影響を及ぼしていることを明らかにした。この成果は、国際学会で1件、国内シンポジウムで1件報告済みである。現在、投稿論文準備中である。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1年目に計画していた、微生物の生存の解析で成果を得る事ができ投稿論文を準備中である。捕集執権では、軌道上での微生物の有無まで解明する予定だったが、終了していない。しかし、サンプルを入手し進行中である。2年目に成果をあげる事が可能である。

今後の研究の推進方策

国際宇宙ステーション上では引き続きサンプルが曝露されている。本年度の秋頃にサンプルが帰還予定である。帰還後、サンプルの解析を進める。曝露実験では、2年間宇宙環境に曝した微生物の生存率を調べる。1年目の生存率の結果とともに考察し、宇宙空間での微生物の長期生存能力を解明する。
捕集実験は、引き続き、衝突痕内部に微生物が存在するかの検証を進める。蛍光観察で微生物がいるかを検証を続ける。検出された場合、遺伝子解析を行う。仮に検出されなかった場合は、2年目以降に帰還するエアロゲルの衝突痕の解析を続ける。

次年度使用額が生じた理由

物品費が予定していたより少額で決済したため。

次年度使用額の使用計画

来年度の物品費に使用する。

研究成果

• [国際共同研究] University Wine(オーストリア)
  • 国名: オーストリア
  • 外国機関名: University Wine
• [雑誌論文] Space as a tool for astrobiology: review and recommendations for experimentations in Earth orbit and beyond. (2017)
  • 著者名/発表者名: Cottin,H.,Kotler,JM.,Billi,D.,Cockell,D.,Demets,R.,Elsaesser,P.,d'Hendecourt,L.,vanLook,J.,Martins,Z.,Onofri,S.,Quimm,R.,Rabbow,E.,Rettberg,P.,Ricco,A.,Slenzka,K.,delaTorre,R.,deVera,J.,Westall,F.,Carrasco,N.,Fresseau,A.,Kawaguchi,Y.,Kebukawa,Y.,Nguyen,D.,Poch,O.,Saiagh,K., Stalport,F., Yamagishi,A., Yano,H., Klamm,BA.
  • 雑誌名: Space Science Reviews 巻: 印刷中 ページ: 印刷中
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] 500 μm cell-aggregation of Deinococcus spp. was enough thickness to survive after 384 days exposure at ISS orbit in Tanpopo mission. (2017)
  • 著者名/発表者名: Y., Kawaguchi, I., Kinoshita, J., Yatabe, Y., Murano, D., Fujiwara, M., Harada, K., Nakagawa, I., Narumi, S., Kodaira, Y., Uchihori, H., Hashimoto, S., Yokobori, A., Yamagish,
  • 学会等名: JpGU-AGU Joint Meeting 2017
  • 発表場所: 幕張メッセ、幕張、千葉
  • 年月日: 2017-05-20 – 2017-05-25
  • 国際学会
• [学会発表] 「生命が宇宙を旅する?! 宇宙実験 (たんぽぽ計画)」 (2017)
  • 著者名/発表者名: 河口優子
  • 学会等名: 第2回Keio Astrobiology Camp 2017
  • 発表場所: 慶応大学鶴岡キャンパス、山形
  • 年月日: 2017-03-26 – 2017-03-28
  • 招待講演
• [学会発表] Analysis of survival and DNA damage of space exposed Deinococcus spp. (2017)
  • 著者名/発表者名: 河口, 優子; 木下, 伊織; 藤原, 大佑; 矢田部, 純; 村野, 由佳; 青木, 元秀; 谷口, 紀恵; 鳴海, 一成; 林, 宣宏; 中川, 和道; 橋本, 博文; 横堀, 伸一; 山岸, 明彦
  • 学会等名: 第17回宇宙科学シンポジウム 講演集
  • 発表場所: 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)(ISAS)相模原キャンパス), 相模原市, 神奈川県
  • 年月日: 2017-01-05 – 2017-01-06
• [学会発表] 「生命が宇宙を旅する?! 宇宙実験 (たんぽぽ計画)」 (2016)
  • 著者名/発表者名: 河口優子
  • 学会等名: 出張someoneセミナー うわさのハカセに会おう！、株式会社リバネス主催
  • 発表場所: TEPIA先端技術館、東京
  • 年月日: 2016-12-25 – 2016-12-25
  • 招待講演
• [学会発表] The ground-based experiments of survival test and DNA-damage analyses of Deinococcus spp. after exposure to simulated space conditions for Tanpopo mission. (2016)
  • 著者名/発表者名: Y., Kawaguchi, D., Fujiwara, I., Kinoshita, J., Yatabe, I., Narumi, M., Aoki, S., Yokobori, H., Hashimoto, K., Nakagawa and A., Yamagishi,
  • 学会等名: 16th European Workshop on Astrobiology
  • 発表場所: アテネ、ギリシャ
  • 年月日: 2016-09-27 – 2016-09-30
  • 国際学会
• [学会発表] 模擬宇宙環境で生じたDeinococcus属細菌のDNA損傷の解明 (2016)
  • 著者名/発表者名: 河口優子、木下伊織、藤原大佑、矢田部純、鳴海一成、青木元秀、中川和道、橋本博文、横堀伸一、山岸明彦
  • 学会等名: アストロバイオロジーネットワーク2016年年会
  • 発表場所: 東北大学、仙台、宮城
  • 年月日: 2016-09-22 – 2016-09-23
• [学会発表] 国際宇宙ステーション曝露部を利用した惑星間での微生物の移動検証 (2016)
  • 著者名/発表者名: 河口 優子, 横堀 伸一, 橋本 博文, 矢野 創, 富田-横谷 香織, 林 宣宏, 鳴海 一成, 今井 栄一, 田端 誠, 河合 秀幸, 奥平 恭子, 佐々木 聰, 中川 和道, 山岸 明彦
  • 学会等名: 第60回宇宙科学技術連合講演会
  • 発表場所: 函館、北海道
  • 年月日: 2016-09-06 – 2016-09-09
• [備考] たんぽぽ計画
  • URL: http://www.ls.toyaku.ac.jp/~lcb-7/tanpopo/
• [備考] 極限環境生物学研究室 河口優子
  • URL: http://www.ls.toyaku.ac.jp/~lcb-7/kawaguchi/index.html