研究課題
宇宙実験「たんぽぽ」計画では国際宇宙ステーション上で微生物の捕集、曝露実験を遂行した。微生物の宇宙生存を調べるために、乾燥した放射線耐性菌Deinococcus属細菌を宇宙環境に曝し、地上にて生存率解析を行なった。500μm厚の微生物の凝集体は宇宙で1年間生存できることがわかった (Yamagishi, A., Kawaguchi, Y., et al., 2018)。2、3年間にわたり宇宙曝露した微生物は生存可能であった。1年間曝露で生存率は大きく低下するが、2、3年間曝露による生存率は1年間曝露の生存率とほぼ同等であった。地上コントロールサンプルと比較して1年間曝露で生存が下がった要因は、宇宙環境要因ではなく、サンプル調整過程や、保存時に生じた酸化損傷であることが推定された。また、宇宙環境では酸化損傷の要因となる酸素がなく、真空により生体内の水分が抜けることで、DNA損傷の蓄積が抑えられると考えられた。宇宙暴露したDNA修復系遺伝子変異株の生存率の結果から、紫外線により誘発される塩基損傷が最も深刻な生存率の低下要因であることがわかった。実験値を元に推定した生存曲線から、1mmのDeinococcus属細菌の凝集体は宇宙空間で約40年間生存可能であることが推定された。これはパンスペルミア仮説を強く支持する結果である。rpoB遺伝子の突然変異を指標とし、突然変異率と変異スペクトルを解析した。宇宙で生じる突然変異頻度は地上コントロールに比べ約1桁上昇することがわかった。しかし、2、3年間の宇宙曝露で突然変頻度が1年間曝露と比較して有意に上昇しなかった。宇宙曝露サンプルと地上サンプルのスペクトルは酸化損傷による変異が示唆された。これは、宇宙環境要因で特異的に突然変異が引き起こされるのではなく、地上でも生じる酸化損傷が最も大きな変異原であることを示す。
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