いくら誤差が小さく精度のよい年代値であっても,求められる前提条件を満たしていない場合,得られた数値は意味のないものになる.K-Ar 年代測定において,数十万年前より若い試料を対象とする際には,アルゴン初期値の質量分別補正が必要であることが明らかにされているが,(1)実際に初期値がどの程度ばらつくのか,(2)質量分別が起こるメカニズム,については明らかにされていない. そこで本研究では,通常年代測定の対象とされない非常に若い試料や噴出後に急冷した試料についてアルゴン同位体組成と岩石学的特徴との関連を明らかにし,変動傾向とメカニズムについて議論する. 平成30年度は,アルゴン同位体組成試料の岩石学的特徴および前処理法との関連についての検討を進めた.岩石中に微少量しか含まれ38Arのピーク検出精度の限界により,誤差を超える変動傾向は得られず、質量分別が起こるメカニズムの議論には未だ不十分である。今後、希ガス質量分析装置や解析ソフトの改良により誤差の低減が必要である。年度途中からの研究代表者の出向と共同研究先であるオレゴン大学での火災による装置トラブルのため,年代測定について計画通りデータが得られなかったが,昨年度までに取得済みのAr/Ar法によるデータとK-Ar法によるデータとの比較検討を進め,国内学会で発表した.また,オレゴン州立大学の共同研究者と論文化のための議論を進めた.本研究課題では、近年発達したAr/Ar年代測定が、古くから行われているK-Ar年代データより高精度で優れているとされてきた考え方を覆し、若い試料に対しては新手法のK-Ar年代の方が確度が高い結果を得られる場合があることを示した。今後さらに高精度のデータを蓄積し、アルゴン初期値のばらつきの傾向とデータ解析法が確立することで、年代測定適用範囲の拡大と地質イベントの高確度での年代決定を目指す。
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