研究課題/領域番号 |
16K17847
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
宇佐見 俊介 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (80413996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁気リコネクション / 多階層モデル / 球状トカマク / 圧力駆動型不安定性 |
研究実績の概要 |
プラズマにおける階層横断現象の全体像を理解することを目指して、様々な多階層シミュレーションモデルの開発・改良を行い、並行して、それらのモデルを支える第一原理的なシミュレーションによる物理機構解明を進めている。本課題では、多階層モデルをパラメータ繰り込み型と領域分割型の2つに大別している。 磁気リコネクションのための領域分割型の多階層モデルを構築するため、リコネクション下流における物理探究を進め、2020年度は、熱緩和過程は働いていないが、形状はMaxwell分布とほぼ近い速度分布構造「疑似Maxwell速度分布」が形成されていることを明らかにした。さらに、この形成過程がこれまでの円環状分布をはじめとした異常速度分布と同じ枠組みで説明できることを示した。この成果にて国際会議AAPPS-DPP2020の招待講演に選出された。一方、多階層シミュレーションの具体的な系への適用として、球状トカマク(ST)装置を念頭におき、これまでの粒子モデルの境界条件や初期条件を大幅に変更して、ST装置内における磁気リコネクションを通じてのプラズマ合体を模擬したシミュレーションを実施した。この研究は、2021年に延期されたIAEA-FEC2020の国際選考を通過するなど高い評価を受けた成果となった。 パラメータ繰り込み型多階層モデルの適用対象の1つとして、圧力駆動型不安定性を採用した。研究ツールとして拡張MHDモデルを用いている研究者の協力を得て、微視的な物理を現象論的なモデルで代替するラージ・エディ・シミュレーション手法を用いることとし、粒子シミュレーションによる必要なパラメータ・ランを実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
磁気リコネクションに絡む物理機構を解明することに関しては、計画以上に進展している。本課題で見出した疑似Maxwell速度分布が及ぼしうる影響は非常に大きく、これまで分布関数観測などから真の加熱が起こっていると判断されてきた結果が実効的な加熱の誤認であった可能性を示唆したものとなった。また、2次元ではあるもののST装置内部の磁場形状を模擬して、ポロイダル面全体を扱う粒子シミュレーションを実施することができたのは予想以上の大きな進捗であった。そのシミュレーションは、ST装置内ではプラズマの加熱が磁気リコネクションを通して起こるが、運動論効果が重要な領域が予想外に拡大し、ダイナミックな振る舞いをすることを示して大きな成果をあげた。しかし一方でこの知見は、ST装置内へ領域分割型多階層モデルを適用することの困難さを明確に提示した側面ともなった。 一方、パラメータ繰り込み型多階層モデル開発面においては、新型コロナ禍のため、新しいスパコンの運用開始が遅れた。さらに、もともとスカラー機向けに最適化されていたシミュレーションコードを新スパコン向けのベクトル機用にチューニングするベンダーの作業も遅れた。そのため、予想したほどの計算速度が出ない結果となり、圧力駆動型不安定性の運動論効果をモデリングするために予定していたパラメータランが完了せず、結果、モデリングにまで至っていない。 まとめると、全体としての進捗状況は「遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
多階層モデルを支える第一原理モデルとも言える粒子シミュレーションを用いて、磁気リコネクション下流における物理の探究と、球状トカマク装置内の磁気リコネクションを伴ったプラズマ合体過程の解明を継続する。前者の重要な点として、円環速度分布と疑似Maxwell速度分布は、大枠では同じプロセスで形成されるものの、その違いを分ける理論を作ることがある。粒子軌道解析からカオス理論を用いて理論構築に取り組む予定である。後者では、粒子シミュレーションの成果から高効率のプラズマ加熱生成条件などを解明して、ST実験側に提案できるようにすることを目標にする。これらの物理過程探求で得られた知見は、多階層モデルの発展に活かす。 一方、圧力駆動型不安定性については、まず、スパコンベンダーのさらなる協力を得て、シミュレーションコードの高速化を完了させる。そのコードを用いて計画から遅れている、粒子シミュレーションのパラメータランを完了させ、運動論効果のモデリングを行う。そのモデリングを組み込んだ大規模なMHDシミュレーションを実施して、圧力駆動型不安定性の階層性・多様性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、現地での開催を予定していた国際学会が延期・オンライン開催となり、海外出張費を使用しなかった。また、新スパコン運用開始の遅れもあってデータを保存するためのハードディスクドライブ、解析ソフトウェアの購入を取りやめた。研究計画を練り直し、繰り越した予算は、2021年度の国内・国際会議の参加費や、ハードディスクドライブ、解析ソフトウェア購入、また、スパコン使用料のために用いる。
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