研究課題/領域番号 |
16K17848
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
南本 大穂 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80757279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 局在プラズモン / 電気化学反応 / 表面増強ラマン散乱 / 分子制御技術 |
研究実績の概要 |
金属ナノ構造を高度に制御することで、局在表面プラズモンを特定波長照射下で誘起することが可能になる。プラズモン誘起に伴い形成する増強電場空間内では、極めて特徴的な電子励起プロセスが誘起され、励起電子、正孔の電気化学ポテンシャルが変調される。加えて近年では光圧が室温下でも無視できない分子摂動となる可能性が示されている。本課題では、プラズモン誘起増強光電場空間が化学反応を変調し得る因子となり得るかをin-situ光電気化学分光、電極触媒活性、生成物評価などを通じて評価した。 数ナノメートル程度の間隙を有する金二量体構造を作製し、金属ナノ構造の電気化学電位を制御可能な系を構築した。その構造を用いて光局所場に存在する低分子量分子の挙動を表面増強ラマン散乱法により電気化学電位制御下で観測した。分子由来のラマン散乱強度の経時変化を追跡した結果、特定の電気化学電位において分子の選択的捕捉効果が発現することが確認された。さらには、分子捕捉効果が電気化学電位に対して可逆的であり、相対分子数が励起光強度に依存することも明らかにした。使用した分子は特定の電気化学電位に依存して金属電極表面に対して特定の吸着配向をとることから、吸着状態の制御が再現性の高い分子制御において極めて重要であることが示された。つまり、光局所場における物質捕捉効果の制御因子として、光局所場のデザインに加えて電気化学電位もその制御因子になり得るという知見が得られた。 以上の検討に加えて、電気化学反応が進行する金属電極表面を表面増強ラマン散乱により調査した。その過程で、特定の金属、励起光波長を用いた条件において、同位体種が選択的に電極表面で特異な規則構造を形成する様子が確認された。この事実は、光照射により電極表面に形成した局在光増強場内において、通常の電気化学反応とは異なる事象が発現している可能性を強く支持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プラズモンアクティブな種々の金属ナノ構造を電極表面に作製し、特定波長の光照射により誘起される局在表面プラズモン共鳴を駆動力とした局所化学反応制御技術の確立に向けて種々の検討を行った。その結果、増強電場空間内において、光照射時間の増大に伴い分子捕捉作用が発現する事実を見出した。得られた結果を基に条件検討を重ねた結果、特定の光強度や、電気化学電位に依存して変化する分子配向等の制御因子を明確化することに成功し、再現性の高い分子制御技術の確立に向けて極めて重要な基礎的知見を得た。さらに、今年度の予想以上の成果として、電極表面上の光増強電場内の局所空間において進行する電気化学反応において、通常の条件下では発現しないであろう非常に特異的な挙動が観測された。同位体存在下で進行する電気化学反応を表面増強ラマン散乱により観察すると、同位体種のみが非常に強い散乱強度で、かつ特定の配列構造を形成している挙動が示唆された。この実験結果は、光の摂動による分子補足効果を応用することで、電極表面の分子状態や配向を劇的に変化させることによる反応制御技術創出の可能性を強く支持する結果であると考えている。今後は実際に光照射条件下において進行する電気化学反応由来の生成物をその場観察することで、光照射による反応性変調の可能性を検証することでより詳細な知見を得ることを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
光照射下において誘起されるプラズモン増強電場空間内において電気化学反応の自在変調が発現する系の探索を行い、それを再現性の高いものとするための制御因子解明を目指して種々の検討を行う。現象が高確率に発現する系の実現を目指し、金属ナノ構造作製をテンプレート法やリソグラフィー法等の構造体作製手法を用いて行い、金属ナノ構造の光学特性を精密に制御する。これにより再現性高く光の輻射圧が最も強く分子に作用する光反応場の構築が可能になると期待される。反応場を作製した後は、励起光照射により増強電場を誘起しながら電気化学反応を進行させ、生成した生成物の反応量等を詳細に調査する。実際の測定としては、表面増強ラマン散乱等の分光測定にガスクロマトグラフィー等の質量分析手法を組み合わせ、電極電位に依存して進行する化学反応の反応量を定量化する。光照射下、もしくは暗条件下においてそれらの測定を行うことで、光照射に伴う化学反応性変調についてその可否を調査する。光照射による効果が確認された後は、種々の手法により作製した様々な金属構造を用いて同様の検討を行い、化学反応制御が最もよく発現する条件を精査する。以上全ての検討を通じて、光増強電場が分子に作用することによる新規化学反応制御技術が確立される。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度における研究が予想以上に順調に進んだために、当初予定していた予算を全て使用する必要性が無くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の研究計画である、金属ナノ構造体の作製、および反応生成物のその場観測のために予算を使用し、研究計画以上の成果を得るために有効利用する予定である。これに加えて、得られた成果を外部発表するためにも予算を使用する予定である。
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