研究課題/領域番号 |
16K17854
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 祐樹 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (10376634)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光合成 / マンガンクラスター / 電子伝達 / 酸化還元電位 / 分光電気化学 / FTIR |
研究実績の概要 |
本研究では、光合成反応のうちで最大の謎とされる水分解・酸素発生反応におけるエネルギー論の解明を目的に、水分解の反応部位であるマンガンクラスターをはじめとする電子伝達系の酸化還元電位の計測に取り組んでいる。初年度は、+200 mVから-200 mV付近の電位領域で光化学系IIにおけるFTIRを用いた分光電気化学計測を行ったところ、当初想定したよりマンガンクラスターの酸化還元電位は低いことを見出した。ただし、メディエーターとの反応性が低いためか、ネルンスト応答ではないため、引き続きメディエーターを変え、サンプルの状態も変えながら応答性について追及していく予定である。また、この測定に付随して、一次キノン電子受容体QAの酸化還元応答が観測された。こちらはネルンスト式に従ったため、解析すると通常の場合で酸化還元電位は-100 mVであると決定した。これまで、QAの酸化還元電位計測には、間接的にQAの酸化還元状態をモニタする蛍光法が用いられてきたが、初めて直接的にQAの酸化還元状態の計測が可能な手法で決定した例といえる。 また、こうした光化学系IIの電子伝達系の研究において、QAの酸化還元電位はマンガンクラスターの損傷によりシフトするということが知られているが、その要因は明らかにされていない。このことを追求すべく、ATR-FTIR法により詳細にQA周辺の構造を調べた。その結果、FTIR差スペクトルはマンガンクラスターの損傷によりほとんど変化しないことを明らかにした。したがって、QAの水素結合構造や蛋白質との直接的な相互作用はMn除去によってほとんど影響を受けていないものと結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標であった、マンガンクラスターの酸化還元状態を追跡することができ、さらなる条件検討は必要であるが、ほぼ当初の予定を達成できたと考えている。また、付随的に第一キノンQAの酸化還元電位を、直接的な観測法であるFTIR法を用いて初めて計測することに成功し、想定した以上の結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
マンガンクラスターの酸化還元特性の解明に向け、サンプルの調製方法あるいは表在性蛋白質の状態などを変えながら、使用するメディエーターの検討も行い、酸化還元電位の計測に取り組んでいく。また、初年度に確立した、FTIR法を用いたQAの酸化還元電位の計測においても、これまで分子メカニズムが不明であったマンガンクラスターの損傷による影響についても、詳細に調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた物品が一部安く購入できたのと、年度末近くにアクセプトされた論文がまだ印刷中のため、別刷り代請求ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品購入に予定していた経費については、本年度に使用する予定である。別刷り代請求については、出版され次第本経費を使用する予定である。
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