本研究では、光合成反応のうちで最大の謎とされる水分解・酸素発生反応におけるエネルギー論の解明を目的に、水分解の反応部位であるマンガンクラスターをはじめとする電子伝達系の酸化還元電位の計測に取り組んでいる。2年目にあたる平成29年度は、前年度に取り組んでいたマンガンクラスターの酸化還元電位の計測の際に見出した一次キノン電子受容体QAの酸化還元電位にあたり、FTIR法による計測法を確立し、従来の計測法である蛍光法の問題点を明らかにした。特に、従来ではマンガンクラスターが損傷するとQAの酸化還元電位が通常-100 mV程度のところ、+150 mVシフトすることが見出されていたが、FTIR法による分光電気化学計測の結果、いずれにおいても-100 mV程度であり、シフトすることは見いだされなかった。この結果は、初年度に見出されたATR-FTIR測定によって得られた知見(QAの水素結合構造や蛋白質との直接的な相互作用はMn除去によってほとんど影響を受けていない)からも支持されるものといえる。したがって、従来の電位計測から考えられていた光化学系IIにおける電子伝達の制御機構を抜本的に見直すこととなった。 また、QAの電位計測を通じて、マンガンクラスターの酸化還元特性は、-200 mVよりマイナス側でも損傷を受けることなく、可逆な酸還元応答を示すことを見出した。このことより、低電位側の計測の可能性が十分に示されることとなった。
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