研究課題
スピンを利用した演算や記録を行うスピントロニクスは、省電力かつ高速な次世代の情報処理技術として注目されている。その中核をなすスピンバルブ素子は、中間層としての絶縁体または伝導体を強磁性電極で挟んだ構造をしており、両電極の磁化の方向に応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗効果を利用する。中間層として1つの分子を利用する分子接合では、のようにスピン分裂した分子軌道を伝導経路とし、かつ弱いスピン軌道相互作用のため、無機よりも優れたスピン輸送性能を持つスピンバルブ素子が実現すると期待されている。さらに分子は機能を設計できる最小単位であるため、伝導度や伝導経路のスピン偏極率を自在に操作することができるとされるが、実用化レベル(数百%)の磁気抵抗比はまだ得られていない。本研究では、まず各分子軌道のスピン分解状態密度と電極とのカップリング定数を第一原理ベースで求めるアルゴリズムを伝導計算プログラムの一つであるSMEAGOLに実装し、電極に挟まれた分子軌道のスピン偏極の様子を記述できるようにした。その上で、Ni-C60-Ni接合において、C60が両電極に等しく結合している場合と片側のC60-Ni電極間距離を十分離した時の磁気抵抗比を計算した。-0.7eVのピークは共鳴反転モデルの通り正負反転するが、0eV付近のピークは負に転じることはない。この違いは、共鳴反転モデルに含まれていない要素、すなわち当該エネルギーに位置する分子軌道のスピン分極の様子の相違に起因するものであることを示した。この成果は、現在論文として執筆中である。
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